ユニークな取り組みで目指す「東京一の学校」とは/北区立稲付中学校 武田幸雄校長先生


北区立稲付中学校
校長 武田幸雄先生

ユニークな取り組みで目指す「東京一の学校」とは

赤羽西エリアでもひときわ緑が多く、大規模なスポーツ関連施設も集積している赤羽西6丁目エリア。この地にある「北区立稲付(いなつけ)中学校」は、公立の中学校でありながらも、ほかの学校では見られないユニークな取り組みが数々実践され、話題を集めている。その発起人となっているのが、2011(平成23)年に学校長として着任した、武田幸雄先生である。 今回は武田先生をお訪ねし、学校経営に懸ける想い、地域の魅力などについてお話を伺った。

稲付中学校では教育目標として「確かな学力」「豊かな人間性」「健やかな体」という言葉を掲げていらっしゃいますが、この実現のために、どのような工夫や実践をされているのでしょうか。

北区立稲付中学校 校長インタビュー
北区立稲付中学校 校長インタビュー

本校の教育目標にある、「確かな学力」「豊かな人間性」「健やかな体」というのは、わかりやすく言えば、「知・徳・体」という言葉に置き換えられるかと思います。現在、子どもたちに求められているものは、その3つの要素の「バランスの良さ」だと思います。ひとつが突出して良いというのではなく、すべてにおいてバランス良く向上させたい、そういった願いを持って教育にあたっています。 この想いを、学校経営計画の中の「めざす学校像」という部分の中では、「基本的生活習慣の確立した生徒」「基礎的な学力の定着している生徒」「規範意識の育っている生徒」、という言葉にさらに置き換え、具体的な教育活動の中に取り入れています。

北区立稲付中学校 校長インタビュー
北区立稲付中学校 校長インタビュー

まず、学校の一番の役割は勉強をする場所であり、特に中学校は「出口保証」が強く求められます。そこで、まず第一に、基礎学力の定着ということで、本校では独自にいくつかの取り組みを行っています。数学と英語の授業では、「少人数・習熟度別授業」を全学年で取り入れています。また、北区の学校はすべて2学期制となっていて、通常の中学校は、定期考査を年に4回(各学期中間、期末)行うという学校が多いかと思いますが、本校の場合は独自に、春、夏、秋、冬、学年末と、定期考査を年に5回実施しています。

当然ながら、これらは全体的な学力の向上のための施策です。また、学習の評価評定についても、通常の中学校では年に2回の提示が多いかと思いますが、本校では年に4回、評価評定を提示するようにしています。3学期制の学校よりもさらに1回多いことで、子どもたちが自分の学習を振り返る機会を増やし、先々の目標を持てるようにしています。

北区立稲付中学校 授業4
北区立稲付中学校 授業4

また、北区の中学校では年間に10回の土曜日授業が定められており、本校でももちろん、その10回の土曜授業は行っています。ただし、それとは別に「稲中サタデースクール」という名称で、年にプラス7回、土曜日に特色のある活動を行っています。 そのほかとしては、「一人一資格運動」というものを本校では推奨しております。

北区立稲付中学校 校長インタビュー
北区立稲付中学校 校長インタビュー

これは卒業するまでの間に、必ず何かしらひとつの資格を身につけようという取り組みで、特に全校態勢で取り組んでいるのは英検の取得です。もちろんひとつ資格を身につけたのならば、さらに上級の資格を目指したり、あるいは、漢字検定や数学検定といった、複数の資格取得を目指そうということでも取り組んでおります。

授業の時数自体もほかの学校よりも多いと伺いました。

北区立稲付中学校 校長2
北区立稲付中学校 校長2

そうですね、授業時数は、北区内、あるいは東京都内全体を見ても、トップレベルにあるかと思います。数字としても、北区では標準の給食実施回数を185回としていますが、本校では上限一杯の190回の給食を提供して、午後にも授業を行う日を増やしています。午前中授業で終わることが多い始業式や終業式、定期考査の日などにも給食を出して、午後も授業を行っています。

先ほどご説明のあった、「稲中サタデースクール」について詳しく教えてください。

北区立稲付中学校 校長インタビュー
北区立稲付中学校 校長インタビュー

「稲中サタデースクール」については、これはあくまで「土曜授業」ではないので、授業時数としてはカウントされません。だからこそ、特色ある教育活動を行うように意識して取り組んでいます。 たとえば、英検の実施日に合わせて「稲中サタデースクール」を設定し、全員で英検を受けたり、また3年生については、12月の下旬から2月の下旬にかけて集中的に時間を取って、受験対策講座を開いています。

北区立稲付中学校 校長インタビュー
北区立稲付中学校 校長インタビュー

講座内容については、例えば数学の教員が何人かいれば、それぞれが図形、証明、計算といった具合に担当するジャンルを決めます。ほかの科目でも同様です。そういった細かなメニューの中から、子どもたちは自分が受けたい講座をピックアップして、自分の時間割を作って受講します。苦手を克服しようという子もいれば、得意な部分をさらに伸ばしたいという子もいます。 同時期には、都立高校の入試のための集団討論対策の講座や面接対策の講座も開かれます。こういった講座を、12月の下旬くらいから入試まで、徹底的に行います。

先生は「東京で一番の学校にする」という目標を掲げていらっしゃいますが、「東京で一番」とはどのような学校なのでしょうか。

北区立稲付中学校 校長インタビュー
北区立稲付中学校 校長インタビュー

「東京で一番の学校」については、簡単に言えば、「相対評価ではなくて、絶対評価としての“一番の学校”」という意味です。つまり、ほかの学校と比べて何かの順位が上だとか、そういうことではありません。そこに通っている生徒、教職員、保護者の方、地域の方々に、「東京で一番の学校はどこですか?」と尋ねた時に、即答で「稲付中です」と返せるような学校、そういう学校をつくりましょうということです。

北区立稲付中学校 校長インタビュー
北区立稲付中学校 校長インタビュー

この目標に向かって、私立の中学校にも負けないくらいの「クオリティの高い教育サービス」を提供していこうと考えており、特色ある教育活動を行っています。 まずはソフト面から、教育サービスの向上を図っていこうと取り組んでおり、実際、内容も充実してきたかと思います。

校舎、つまりハードの面でも、今後嬉しい話題があるようですね。

北区立稲付中学校 校舎1
北区立稲付中学校 校舎1

実はハードの面についても、校舎を建て替えていただけることが決まりました。本校は2019(平成31)年度に、全面改築した新しい校舎となる予定です。2016(平成28)年度からは少しの間、適正配置で校舎の空く「北区立第三岩渕小学校」を中学生向けに改装して移ります。最新の技術を駆使した、先進的な校舎となります。その時には、ソフト面だけではなくハードの面でも、文字通り「東京で一番の学校」ができるのではないかと期待しています。

校長先生は学校のホームページに、毎日のように学校内の様子を写真付きでアップしていますね。そのねらいいはどこにあるのでしょうか?

北区立稲付中学校 廊下1
北区立稲付中学校 廊下1

私が自分自身で目指す校長像が、「誰よりも生徒のことを知っていて、誰よりも教員のことを知っている校長」です。そうなるために一体どうすれば良いのかと言えば、とにかく、毎時間どこかしらの教室に顔を出し、授業を見て、生徒を見て、教員を見るというのが、とにかく唯一の方法だと思います。 ですから私は、ほぼ毎日、1時間目から6時間目まで、どこかの教室で授業を見ています。

ですから、もともとは「さまざまな授業に生徒、教員が一体となって取り組んでいる様子を取材させてもらいたい」ということで始めたことです。そして、取材をした以上、それを広く広報するのが私の役目でもありますので、本校のホームページに掲載しています。

北区立稲付中学校 校長インタビュー
北区立稲付中学校 校長インタビュー

これを続けることによって、自分も生徒の様子、教員の様子を知ることができますし、同時にホームページという媒体を通して、保護者の方や地域の方にも見ていただけますので、保護者の方も、学校でわが子が、どんなことをやっているかを、知ることができます。 中にはホームページを見て、それをきっかけに、家庭の中で親子の会話が弾んだり、学校の様子を子どもから親御さんに話してくれるということも、生まれているのかもしれません。

学校側としても、何年生の何の教科の何先生は、授業でこんな工夫をしている、といった努力を保護者や地域の方々に知ってもらうということも、大きなメリットになっていると思っています。 これは私が着任して以来、1年間365日、毎日何かしら更新しています。長期休業中は部活動や補充教室、宿泊行事の様子などを取材して載せています。

実際生徒、先生、保護者の方々など、反応はいかがでしょうか?

北区立稲付中学校 校長インタビュー
北区立稲付中学校 校長インタビュー

おかげさまで好感触です。私たちとしては、保護者の方や地域の方に対しても、「いつでも学校を開いていますから、いつでも授業を見に来てください」という姿勢ですが、実際問題、なかなかそれは難しいですよね。そうは言っても保護者の方々にも仕事があるでしょうし、敷居が高いという意識をもたれている方もいらっしゃるなど、現実問題としてはいろいろあるわけです。 ただその敷居が、ホームページのおかげで下がってきたということは言えると思います。親御さんも、わざわざ学校に足を運ばなくても、日々わが子が、あるいはわが子の友だちが、どういう表情で授業を受けているのか、いま学校で何が起きているのかということを、本当によく分かるようになった、と言われることが多いです。

地域の方々についても、「子どもたちって今はこんな勉強をやっているんだね」とか、「自分たちの時代とは変わったよね」なんてことを、気軽に言っていただけるようになりました。生徒についても、授業中に私がいる光景が当たり前になっているので、私は存在していない、空気みたいなものですよ(笑)。

「稲付中サブファミリー」というものがあるそうですが、これは何でしょう?

北区立稲付中学校 校長インタビュー
北区立稲付中学校 校長インタビュー

これは稲付中学校とその学区の小学校3校をまとめてそう呼んでいるものです。「北区立清水小学校」「北区立第三岩渕小学校」「北区立梅木(うめのき)小学校」ですね。この3校の小学校とは、お互いの学校の教員がチームティーチングという形で、年に3回の交流を行っているのが主な活動です。授業というのは単発で行えるものではないので、事前に打ち合わせをしたり、検討会を開く機会が多くなります。

北区立稲付中学校 校長インタビュー
北区立稲付中学校 校長インタビュー

そういう流れの中で、各小学校、中学校の子どもたちということではなく、「この地域の子どもたち全体」という視点で、抱えている学習上の課題、生活面での課題というものを、双方の教員が共有できるようになっていきます。 この事業を通して、6年間、3年間という括りで分けるのではなく、「義務教育課程の9年間で、こういうふうにやっていきましょう」という意識が、教員の間で芽生え始めているのかな、と感じています。

稲付中学校の近くにはJOCのオリンピック選手育成施設があり、未来のオリンピック選手を育てる「エリートアカデミー事業」のアカデミー生も稲付中の生徒として在籍しているということですが、このような環境が教育内容に活かされているという部分はありますか?

北区立稲付中学校 校長インタビュー
北区立稲付中学校 校長インタビュー

JOC(日本オリンピック委員会)の「エリートアカデミー」は、簡単に言うと、将来のオリンピアンを目指す選手を全国から集めて、本校の近くにある、「ナショナルトレーニングセンター」で合宿生活を送りながら、育成するというものなんですね。そのセンターが本校の学区域ですので、当然そこに入ってきた子どもたちは、本校に通うことになります。

北区立稲付中学校 校長インタビュー
北区立稲付中学校 校長インタビュー

アカデミーの対象種目はフェンシング、レスリング、卓球、ライフル射撃、高飛び込みの5種目です。 本校にも25名ほどのアカデミー生が在籍していますが、だからといって、校内で彼らを特別扱いするということは一切ありません。活動の特性上、彼らは部活動には所属していませんが、普通に授業を受けていますし、学校内での生活は、ほかの生徒とまったく変わらないですね。

北区立稲付中学校 張紙
北区立稲付中学校 張紙

ただ、これがほかの生徒にまったく影響が無いというわけではなく、やはり同級生が世界の第一線で活躍しているんだということは、生徒にとっても刺激になっていて、「オリンピックには出られないけれど、そうではないところで、自分も一番を目指そう」という意識を持っている子は多いと思います。 また、アカデミー生が通っているということもあって、本校では毎年「オリンピック教室」というものが開かれています。これはJOCのご厚意によるものです。

北区立稲付中学校 校長インタビュー
北区立稲付中学校 校長インタビュー

オリンピアンが本当に来てくれて、2時間の授業の中で、一緒になってアクティビティを楽しんだり、教室での座学の中で、オリンピック精神とはどういうものか、スポーツマンシップとはどういうものかということ、また、自分が挫折しそうになった時に、どうやってそれを乗り越えてきたのか、といった話をしてもらっています。

北区立稲付中学校 校長インタビュー
北区立稲付中学校 校長インタビュー

これは子どもたちに夢を与えてくれるきっかけにもなっていると思いますし、同時に、オリンピックというのが、ほかの学校の生徒以上に、ものすごく身近なものとして感じられているということは、間違いないかと思います。 エリートアカデミー事業については、まだ2015(平成27)年で7年目ですので、卒業生がオリンピックに出たという話は無いのですが、すでにアカデミー生の卒業生もいますので、東京オリンピックが楽しみですね。

稲付中学校では過去にオリンピックを開催した国の料理を出したりと、ユニークな食育の取り組みもされていますね。そのねらいはどんなところにあるのでしょうか?

北区立稲付中学校 食育1
北区立稲付中学校 食育1

本校には、北区の小中学校ではまだ2名しか配属されていない「栄養教諭」が1名在籍しておりまして、その部分で、食育においても特徴的な活動ができているのかと思います。「栄養士」は多くの学校で配属されているのですが、本校は「栄養教諭」なんですね。 栄養教諭は、栄養士と同様に献立の作成もしておりますが、それに加えて、「適正な食生活を送るにはどういう工夫が必要なのか」という知識を生徒に教えたり、地産地消について積極的に推奨したりという、栄養士とはまた違った教諭としての役割が与えられております。

北区立稲付中学校 校長インタビュー
北区立稲付中学校 校長インタビュー

2014(平成26)年度から「東京都教育委員会」が指定する「オリンピック教育推進校」というものに本校が指定されまして、オリンピックの国のメニューを給食で出しているのは、推進校で取り組む活動のひとつなんですね。 「オリンピック教育とは何か」と言いますと、運動面だけではなくて、幅広い国際理解や日本の伝統を重んじる心など、そういうことも含まれています。その中で栄養教諭が主体となって、給食の中に、過去にオリンピックを開催した国の料理を紹介していこうという企画が生まれ、今では月に1、2回のペースで、オリンピックの開催国の独特の料理を出すようにしています。

地域での取り組みに稲付中学校の生徒が参加したり、一緒に活動したりといった交流・協働事業などはありますか?

北区立稲付中学校 校長インタビュー
北区立稲付中学校 校長インタビュー

ひとつとしては、本校では年に1回保護者の方、地域の方と一緒になって、地域に出て清掃を行う「親子地域清掃」というものを行っており、先ほどお話した「稲中サタデースクール」の活動のひとつとして行っています。定期的に行われている地域の防災訓練でも、本校の1年生が参加して、一緒になって防災訓練を行っていますね。

北区立稲付中学校 校長インタビュー
北区立稲付中学校 校長インタビュー

ちょっと変わったところですと、この地域が氏子になっている神社で、お正月に本校の生徒が巫女さんをやらせてもらっています。これも一種の職場体験ですね。普通の職場体験も2年生の時に行っており、この時にも、たくさんの地域の方、事業者の方にご協力を頂いています。 地域のイベントへの参加では、主に吹奏楽部が地域の町会の運動会をはじめ、さまざまなイベントに参加しており、毎回素晴らしい演奏を披露して、イベントに華を添えてくれています。

最後に、北区赤羽エリアの魅力についてお聞かせください。

イトーヨーカドー 赤羽店
イトーヨーカドー 赤羽店

赤羽エリアに限らず、とにかく北区は区長自ら「子育てするなら北区が一番」というスローガンをずっと掲げていらっしゃるんですね。そういった面からも、教育に財源を充てていくという割合は非常に高いですし、教育環境としては、たいへん恵まれている区だと思っております。 中でもこの赤羽エリアについて言えば、JR「赤羽」駅周辺には便利な大型スーパーマーケットもある一方で、昔からの人情味あふれる商店街もあり、非常に活況を呈しています。また「赤羽」駅は東京の北の玄関口となっているので、都心部へのアクセスは素晴らしいものがあります。

赤羽自然観察公園
赤羽自然観察公園

その一方で、本校のすぐ近くには、「赤羽自然観察公園」という、緑豊かな公園がありますし、駅の向こうには「荒川河川敷」も広がっています。そういった点も含めて、非常に暮らしやすい場所と言えるのではないでしょうか。 それを裏付けるように、古くからここに住んでいる方もたくさんいらっしゃいますし、一方では大型の集合住宅ができて、新しく越して来られた方も大勢いらっしゃいます。そういった中でも、地域の住民同士のつながりは非常に強く構築されておりますので、安心して暮らしていただける、子育てをするうえでは、たいへん魅力に富んだ地域であると思います。

北区立稲付中学校 校長
北区立稲付中学校 校長

今回、話を聞いた人

北区立稲付中学校

校長 武田幸雄先生

北区立稲付中学校
所在地:東京都北区赤羽西6-1-4
    ※2018(平成30)年度まで西が丘1-12-14に仮移転
電話番号:03-3900-2331
http://www2.schoolweb.ne.jp/swas/index.php?id=1320055

※この情報は2015(平成27)年5月時点のものです。

ユニークな取り組みで目指す「東京一の学校」とは/北区立稲付中学校 武田幸雄校長先生
所在地:東京都北区西が丘1-12-14 ※2018(平成30)年度まで仮移転中 
電話番号:03-3900-2331
http://www2.schoolweb.ne.jp/swas/index.p..