杉並区初の「施設一体型小中一貫教育」。 「杉並和泉学園」のこれからとは/杉並区教育委員会 学校支援課長 青木則昭さん
杉並区教育委員会 学校支援課
学校支援課長 青木則昭さん
杉並区初の「施設一体型小中一貫教育」。「杉並和泉学園」のこれからとは。
井の頭通りに接した場所に並んで建っていた、杉並区立和泉小学校と、和泉中学校。この場所では現在大がかりな工事が行われ、新しい校舎の建設が進んでいる。新しい学校の名前は「杉並和泉学園」。元々あった2つの学校に加え、少し離れた場所にある「新泉小学校」を加えた、3つの学校の学区の子どもたちが一堂に集まる予定だ。新校舎は、中学校の校舎を「大規模改修」し、そこに渡り廊下で接続する形で小学校の校舎を新築するというもので、杉並区がすでに全学校で取り組んでいる小中一貫教育をさらに推し進めた、「施設一体型」で小中一貫教育を行なえる杉並区初の学校として、注目を集めている。今回は杉並区役所内にある教育委員会を訪ね、学校支援課の青木則昭さんにお話を伺った。
杉並和泉学園は杉並区初の「施設一体型小中一貫教育」の学校ということですが、これについて詳しく教えてください
2015(平成27)年4月に開校します「杉並和泉学園」は、和泉小、和泉中、新泉小を統合し、杉並区で初めての「施設一体型小中一貫教育校」ということになります。実は似た言葉で「小中一貫教育」というものがあります。杉並区には現在、小学校が42校、中学校が23校ありますが、2010(平成22)年度からすべての学校で「小中一貫教育」を実施しております。特に和泉・新泉地区に関しては、区内でも最も早い段階から、2005(平成17)年度から実施しております。
「杉並区立阿佐ヶ谷中学校」
ただ、これらはすべて「分離型」と言われているタイプのものでして、例えば区役所の隣には阿佐ヶ谷中学校がありますが、こちらと、少し離れた場所にある杉並六小、七小と一緒に、小中一貫教育を行っています。
今後も基本的には「分離型」によって小中一貫教育を実施することになりますが、学校用地の広さや地域特性などを勘案して、改築時には施設一体型を視野に入れ検討することになります。「杉並和泉学園」がその初めての例というわけです。
区内にこのような条件(小中隣接)を揃えた小中学校はそれほど多くありませんが、今後も高円寺地域で小中学校を施設一体型にする計画がございます。
小中一貫教育の主な目的は、どのような点でしょうか?
一般の方々からは、小学校と中学校は「似たようなものだろう」と見えるかもしれませんが、やはりそれぞれの小学校、中学校ごとに、「文化」がありますし、小学校は「担任制」でジェネラリストの先生方が全部の教科を教えるのに対して、中学校は「専科制」で、スペシャリストの先生たちが、自分の専門の教科だけを教えるという形になっており、大きな違いがあります。
また、小学校では「一段ずつ積み重ねる」という形で隙間なく教えていきますけれども、中学校では、先生方は意図的に“隙間”を空けて教えて、その隙間を、生徒たちは自分で勉強をしていくという意識に変わります。こういった違いから、中学校に入った途端に勉強についていけない子が出てくることがありまして、「中一ギャップ」などという言葉も生まれました。
このような、学習面での「戸惑い」を軽減するというのが、小中一環教育の最も大きな目標のひとつなりまして、義務教育期間を「6・3」と分けるのではなくて、9年間を見通したものにすることによって、「学び残し」、つまり、小学校で理解できていなかったものをそのままにして中学校に上がり、ますます分からなくってしまうことを減らそう、ということで進めております。
分離型だったものを「施設一体型」とすることで、さらにどんなメリットが生じるのでしょうか?
統合される「杉並区立新泉小学校」
施設を一体化することで、小中学校の先生がひとつの職員室にいることになりますので、職員は子どもたちについて、9年間を知ることができます。中学校に上がってくる子どもたちについては、中学校の先生方は小学校時代からの姿をある程度は知っていることになりますし、小学校の先生も、手塩にかけて育てた子どもたちを、中学校に行っても引き続いて自分の目で見られますから、先生同士の情報共有が円滑にでき、サポートもしやすくなります。そこが一番大きなメリットですね。
また、分離型では「出前授業」という形で、中学校の先生が小学校に行って授業をしていますが、この時には、前後の時間に中学校の授業は入れられませんでした。それが施設一体型になりますと、移動が無い分、前後の時間にも授業を入れられますから、先生の稼働効率も良くなりますし、負担も軽減されるかと思います。
一貫教育によって学習の進度や内容は変わるのでしょうか?
統合される「杉並区立和泉小学校」
施設分離型も一体型も、学習の進度自体は変わりません。杉並区ではいわゆる「前倒し教育」は行っていませんので、小学生は小学生としてのカリキュラムを、中学校に入ったら中学生のカリキュラムをやるという、一般的な進み方となります。
一方で、一貫教育では小学校と中学校の先生が連携を取りながら教えますから、たとえば小学校の先生が算数を教えている時には、「今度中学校に行ったらどういう風に教えるのか」という点を意識しながら教えますし、中学校の先生方も、生徒がつまづいた時には、「小学校のどの時点の理解が不足していたか」ということを意識できます。こういった情報を小中の先生で共有し、積み重ねることで、「学び残し」が無くなっていきますから、その結果として、学力は高まっていくと思います。
小学校と中学校とで行事を一緒に行うことになるのでしょうか?
行事については、やはり学校ごとにそれぞれの文化がありますので、今後、先生方と相談しながら決めていくところです。現時点では運動会は合同で行い、学芸会と合唱コンクールは別々に行う、という方向で検討しているところです。
また、親御さんから「6年生は最高学年としてリーダーシップを発揮できるし、卒業式などでけじめもあるが、施設一体型になることで小中の境界が曖昧になってしまうのではないか」という点が指摘されておりますので、学校行事などについては、6年生が最高学年としてリーダーシップを発揮できるような場を作れるように、“見せ場”をしっかりとつくっていきたいですね。
小・中学校で施設を共同で使う部分はありますか?
気になるのが、校庭、プール、体育館といった大きな体育施設のことかと思いますが、「杉並和泉学園」の場合は、校庭はひとつですが、体育館とプールは別々に作っています。中学校の部活では両方の施設を使うことが可能ですので、運動系の部活動は非常にしやすくなるかと思います。
室内ですと、小学校棟の2階、中学校棟と接している部分に「ラーニングセンター」という、図書館とパソコンルームが一体となった広いスペースがつくられ、“学べる場所”として、共同利用されます。こちらは普通教室8部屋分の広さがありますので、かなり魅力的な施設になるかと思います。
また、その隣には「ランチスペース」が設置されまして、こちらも小中で共用しやすい場所になると思います。具体的な使い方については現在検討しているところですが、ラーニングセンター、ランチスペース、渡り廊下を挟んで中学校のオープンスペースと、大きなスペースが繋がっていますので、小中共同のいろいろなイベントの場所としても使えると思います。
新しい教室はどのようになりますか?
小中学校とも、新しい普通教室はすべて南向きに設置されて、南側にはベランダが、北側にはオープンスペースが設置されます。小学校の高学年の普通教室の間には「アルコーブ」という空間がつくられます。必要に応じてオープンスペースに机を出して活動したり、広々と使っていただくことができますし、その一方で、アルコーブの中にある仕切り付きのテーブルでは、自習なども集中して行なえるかと思います。
近隣にある「玉川上水公園」
今回、中学校は新築ではなく、既存の建物を「全面改修」ということになりますが、すべての壁や天井が明るい色に塗り替えられますので、まるで新しい校舎のように変わる予定です。
もちろん全教室に冷暖房も完備していますし、電子黒板、パソコンと繋げられるプロジェクターなども備えていますので、タブレット端末なども使いながら、未来的な授業も行えるよう、現在検討しているところです。
2校のスペースに3校の生徒が集まって、手狭になるということはありませんか?
もともと中学校の生徒数が少なく、定員に余裕がありましたし、新築する小学校部分についても非常に効率よくつくっていますので、今後人数が増えても、狭く感じるということは無いと思います。
なお、この学区では小学校の卒業後、約3分の1のお子さんが国立私立の中学校へ進学している状況にあります。今回、施設を一体にして建物も新しくすることで、より多くの子がそのまま中学に進学してくれるようになれば、と願っております。
先生の数はどうなるのでしょうか?
3校が統合して一つの学園となり、先生の数としては増えますので、小中の先生が連携・協力した教育ができるかと思います。また、校長については、学園全体としての校長を1名、副校長を3名置くという方向で検討をしております。
施設や体制が新しくなることで、学童クラブ(放課後児童クラブ)も充実するのでしょうか?
学童クラブについては、「新泉小学校」については、現状でも校舎の中にありますので、それがそのまま新学園に移行されるという形になります。「和泉小学校」については、現在、近くの児童館の一室に学童クラブが置かれているのですが、こちらも新学園の敷地内に移されます。
「新泉小学校」学区の児童のうち、「杉並和泉学園」の中学校学区ではない児童は、中学に入学する際どうなるのでしょうか?
「代田橋」駅
現在、杉並区には「学校希望制」というものがありまして、ほかの近隣学校も選択できるようになっておりますが、2016(平成28)年度以降はこの制度が無くなりますので、基本的に通学区域の学校へ進学することになります。
「杉並和泉学園」の小学校と中学校の通学区域は微妙に異なっています。たとえば新学園の小学校を卒業する児童の中には、中学校の学区が異なる(新学園の中学校の学区ではない)子どもたちが存在するわけですが、こうした地域のお住まいの子どもたちについては、新学園と、本来の学区の学校を選択することができるようにする予定です。この選択制度は2021(平成33)年頃までは残して、学園の小学校と中学校の通学区域を一致させていく予定でおります。
新学園についての詳しいことは、どこに問い合わせれば教えていただけるのでしょうか?
現時点では各学校にお問い合わせいただいても対応が難しいと思いますので、私ども、教育委員会の学校支援課までお問い合わせください。
最後に、方南町エリアの魅力についてお聞かせください
やはり、都心に近いということが大きな魅力ですね。新宿にすぐ出られますし。また、教育に関しても熱心な方が多い土地柄だと思いますので、私どもとしても、安心して公立学校に進んでいただけるような環境づくりをしていきたいと思っております。
「杉並和泉学園」は杉並区で初めての施設一体型小中一貫教育校となります。ぜひこの機会に、新泉・和泉地区に引っ越してきていただければ嬉しいですね。
※「杉並和泉学園」は2015(平成27)年4月に開校しております。
今回お話をうかがった人
杉並区教育委員会 学校支援課
学校支援課長 青木則昭さん
電話番号:03-3312-2111
(杉並区役所代表)
http://www.kyouiku.city.suginami.tokyo.jp/
※2014(平成26)年4月実施の取材にもとづいた内容です。 記載している情報については、今後変わる場合がございます。