味も店構えも戦後そのまま。変わらぬ「粋」を伝える老舗そば店/あさだ 中田暉さん
「あさだ」は、「八丁堀」駅から徒歩1分の場所にある明治25年創業のそば屋。ビル群に囲まれ、そこだけが時を止めたようなひっそりとした佇まいを見せている。変わらぬ味を求め、八丁堀界隈で働く常連客が足しげく通う老舗を切り盛りするのは、4代目の中田暉さん。「うちはただ古いだけ」と飾らぬ笑顔を見せる中田さんに、店の歴史や八丁堀エリアの魅力についてお話を伺った。
5代目と二人三脚で受け継ぐ創業125年のそばの味
――明治創業と伺いました。まずはお店の歴史について教えてください。
創業は明治25年です。「あさだ」という店名は、創業者が勤めていた製粉会社の名前をいただいたもの。最初は新大橋通りの向こう側に店があったのが、戦争で焼けて、戦後3代目の時にここへ移ってきました。それからしばらく2階で料理を出していたのを1階の店だけにして、あたしが高校生の時には出前もやめて今の形になりました。3代目は戦争へ行っていたから、ほとんどお店にいなくてね。あたしで4代目ですが、仕事一筋でもう50年以上。今は5代目の息子と、ほとんど家族だけでやっています。
――建物やメニューに変化はありましたか?
建物は柱も壁も全部、戦後そのまま。べニヤの下は土壁で、竹を組んで土を入れて練りこんでいます。もう京都あたりに行かないと、こういうのはないんじゃないでしょうか。下が土だからねじがきかなくて、エアコンを付けるのも苦労しました。昔は注文のほとんどが出前だったから、店が今より小さくて、角にあるテーブルもなかった。店の横手は路地で、外にでっかい柳が植わっていました。出前をする若い衆が、住み込みで3人ぐらいいましたね。
メニューは、あたしの代からサラダそばととろろそばを出しているぐらいで、あとは変わっていません。そば屋のメニューというのは、野菜が少ない。それで、期間限定で夏場だけサラダそばを出したらけっこう評判がよくて、いろんな雑誌に紹介されました。うちが始めた頃はまだどこもやっていなかったから、「元祖ですか?」と聞かれたこともあります。マヨネーズをつけて食べるので、始めの頃はお客さんが「そばにマヨネーズ?」とびっくりしていましたよ(笑)。
常連が愛する天もりは揚げたての小柱のかき揚げを茶そばとともに
――人気の商品とこだわりを教えてください。
出るのは99%がそば。一番人気は、青柳の小柱のかきあげを付けた天もりです。こだわりというほどのことはないけれど、揚げたてを出します。えび天とどちらか選べて、若い方はえびですが、ほとんどのお客さんがかきあげを選びますね。小柱は寿司ネタにするものを、毎朝5時に築地に仕入れに行きます。冷凍じゃないから、弾力があって生きている。これを揚げると、甘みが出ます。そば屋で小柱だけのかきあげを出しているところはなかなかない。天ぷら屋さんだと高いけれど、うちはものがいいし、安い。わかってくれる人はわかってくれて、それがうれしいですね。
そばには、戦後ずっと抹茶を入れています。抹茶は、そばに合う京都宇治産。サービスで入れているから、茶そばよりは薄めです。そば好きな人からは、「コシが強い」と言われます。おつゆは、昆布は使わずかつおぶしで出汁をとった辛口です。
あたしはただ先代がやっていたことを受け継いだだけ。ただ、先代はずっと目分量だったのを、ばらつきが出ないように、あたしの代で全部数字に書き換えました。
――お客様はどんな方がいらっしゃいますか?
8割以上がご近所の常連です。昔ここは鉄鋼や印刷関係の会社が多かったんですが、その2代目が見えています。主流はご近所のお勤めさん。長い方では、定年で会社を辞めてからも、この辺に来ると立ち寄られます。「ここの味が忘れられない」という方もいて、「全然変わっていないね」と言われます(笑)。よそは外装を変えたりするから、この辺で変わっていないのはうちだけなんです。スマートフォンで調べてくるような若い方も時々来ますが、若い人にとっては珍しいみたい。
東京ど真ん中の利便性がありながら家族的なぬくもりが感じられる街
――120余年にわたり八丁堀にお店を構えていらっしゃるわけですが、その間に周辺はどう変わってきましたか?
昔は鉄屋の旦那衆がすごく派手でね。うちの2階が営業していた頃は、宴会というとみんな鉄屋さん。あの頃は今でいう居酒屋なんてなくて、飲むところといえば割烹とかうなぎ屋の2階でしょ。銀座から女の子を呼んだりして、だいぶ派手だったのを覚えています。 年寄りから聞くと、ここは以前職人の街だったらしいね。新大橋通りは市場通りと呼ばれていて、その脇にビアホールとかキャバレーが2軒ぐらいあったらしい。うちのおやじは派手だったから、出征する時にそこの女の子がみんな出てきて見送ってくれたという話があるぐらい、相当にぎやかでした。
オフィス街の頃もあったけれど、今はマンションや小さなホテルが増えてきた。自転車が好きで、よくこの辺りを回っているんですが、築地、銀座、京橋、入船なんて、新しいビルがすごいですよ。
――周辺は近年、再開発など変化の著しいエリアですが、お店や街の伝統を守っていくことについて、どのようにお考えですか。
うちはただ続いているだけですが、八丁堀は伝統がある街。江戸時代は町方同心の屋敷があったりしてね。それが、再開発でどんどんマンションが建って、神輿も担ぎ手がいなくなった。ただ、ここはマンションが建ってもそこに移り住んだりして、古くからの住人が多い地区です。町会が一生懸命やっているし、すごく家族的でみんなまとまりがいい。若い人も手伝ってくれるしね。どこで会っても、「ああ」「よう」とあいさつして、「一杯行くか」というような関係が残っています。そういう家族的なところは残していきたい。外部から新しい人が入ってきても、つながりを作っていければいいね。
――八丁堀エリアの魅力や暮らしやすさはどのようなところでしょうか?
あたしはここが好きだからね。東京のど真ん中で交通の便もいいし、スーパーマーケットや病院、学校、幼稚園も、必要なものは近場に全部揃っています。店の前をまっすぐ行けば、歩いて15分ぐらいで二重橋。どこへ行くにも便利ですよ。
あさだ
4代目 中田暉さん
所在地:東京都中央区八丁堀3-21-6
電話番号:03-3551-5284
※この情報は2017(平成29)年9月時点のものです。
味も店構えも戦後そのまま。変わらぬ「粋」を伝える老舗そば店/あさだ 中田暉さん
所在地:東京都中央区八丁堀3-21-6
電話番号:03-3551-5284
営業時間:11:00~19:30
定休日:土・日曜日、祝日