”自ら学ぶ”志高い子どもたちを育てる/開智学園総合部(開智小学校)(埼玉県)
豊かな自然風景や閑静で落ち着いた住環境が広がる埼玉県さいたま市の東岩槻(ひがしいわつき)エリア。ここには、埼玉県有数の進学校『開智学園』があります。昭和58年(1983年)に設立され、これまで多くの卒業生を輩出してきた同校では、開校当時から変わらない伝統と新しい発想を取り入れた先進的な取り組みが行われています。今回はそんな『開智学園』のなかでも、小学校の役割をもつ『開智学園総合部(開智小学校)』に訪問し、学校の歴史や力を入れている教育について、那須野校長先生にお話を伺いました。
――「開智学園」の沿革と概要について教えてください。
那須野校長先生:『開智学園』は、昭和58年(1983年)に『埼玉第一高等学校』として開校しました。私がここに来たのは25年前の平成6年(1994年)で、まだ周辺には高校が1校あっただけでした。平成9年(1997年)に中高一貫の『開智中学校』が開校し、その後小学校教育の重要性について考えるようになり、平成16年(2004年)に本校が開校しました。
現在は小中高の12年間を担う『総合部』と、6年制の『中高一貫部』と、3年制の『高等部』という3つの形で学校が併設されています。
――「総合部」については、「4・4・4」の12年一貫教育を採用していて、大きな特徴となっていますね。こちらについて詳しく教えてください。
那須野校長先生:本校は12年間の一貫教育を行っているというのが一番の特徴です。小学校に入っていただくと、まず4・4という8年間、つまり中学校の2年生までを『総合部』の中で過ごします。中学校3年からは、高校生という枠組みの中で中高一貫部に合流します。
近年、本校は中高一貫部を含め、進学校として見られていますが、実際には本当にのびのびとした校風が特徴です。「思いっきり遊んで、じっくり学ぶ」というのをキャッチフレーズにしているくらいですから。
――総合部のうち8年間は、異年齢でクラスが編成されているそうですが、同校の狙いを教えてください。
那須野校長先生:私どもが総合部(小学校)を作る時に、「何か学校の中核になるものがほしい」と考えたなかで生まれたものです。検討するにあたって、まずは「近年、“子どもたちの学びのベース”というものが失われてきているのではないか」という仮説を立てたんです。私どもが小さいころには、異年齢の集団が至るところにあって、その中で自分の身の処し方を学んでいったのですが、今の子どもたちを取り巻く環境は少子化の影響で大きく変わってきているんです。
本来は異年齢を含む友達の間で過ごすことで、良いことも悪いことも含めて、“学びの基盤”として身につけていければ良いのですが、その“当たり前”が今は失われてきているのではないかと思うんです。
そこで、本校では異年齢学級を作って、そういった“学びの基盤”づくりをしていこうと考えたわけです。これは初年度から実施している本校の大きな特徴であり、伝統のひとつでもありますね。
――異年齢学級で、子どもたちはどのように変わるのでしょうか。
那須野校長先生:異学年齢の子どもたちというのは、一緒に過ごしているだけでも色々な相乗効果があるのですが、本校ではそれをさらに促進するために、『総合芸術』というものを取り入れ、年齢の違う子どもたちで一緒に物語をつくったり、舞台設定をつくったり、配役を決めたり、ということを行っています。
数ある役の中でも、特に主役は人気がありますね。そうなると、主役をやりたい子どもたちは小学校2年生でも4年生でもライバル同士になるんです。そうすると、それぞれの子どもたちが悩んだり、困難に立ち向かったりと成長するチャンスをつかむことができると思うんです。
那須野校長先生:年齢が違うだけで子どもたち同士が分かり合えることは違ってくるので、やはり学校生活では色々なことが起きます。そんな状況を見ている先生たちはどうしても手を差し伸べたくなってしまうのですが、本校では“あえて”それをしません。なぜなら、その葛藤こそが子どもたちが成長していくステップになるから。困難や悩みに立ち向かうことで、成長が生まれるんです。ただ、そのさじ加減が一番難しいところではあるなと日々感じています。
――ほかにも教育方針やカリキュラムの面で、特徴となる点があれば教えてください。
那須野校長先生:本校では、「自ら学ぶ」という姿勢を大切にしています。それを形にしたのが、『パーソナル』という時間です。この『パーソナル』というのは、「自分がやることを全て自分で組み立てる」という時間です。「自分は何が好きなのか、何が必要なのか、何をやりたいのか」を自分で考えて、実際に実行してみるという時間です。本校ではこれを小学1年生からやっています。
最初は戸惑う子もいますが、慣れてくると次第に自分自身で編み物をやったり、物語を読むグループを作ったり、英検グループを作ったりと本当にさまざまです。そのような中で、自分たちの手で、自分たちの学びを開拓し、それをお互いにシェアするということを身につけていくのです。
この『パーソナル』の時間は、セカンダリー(4年生~)になると、『探究の時間』というものにつながっていって、最終的にはフィールドワークのような形で、実際に現場に出て、自分たちで課題を探し、自分たちで一定の理解を得て、プレゼンし合うということもしています。
――子どもたちは、自分自身の興味のあることに専念できるということですね。
那須野校長先生:そうですね。私自身は、「得意を伸ばす」という言葉がこの学校を表す標語としては一番ぴったりだと思っています。やはり好きなことや得意なことがあれば、それだけで人と人とはつながれると思うんですね。それが「言語」になると思うんです。
――「得意」は「言語」である、とは面白いですね。
那須野校長先生:英語をいくら勉強しても、伝えるべきことや得意なことがなければ、あまり意味がないんですよ。そういった点では、数学や芸術なんかはもっとすごいと思いますね。言語の壁も年齢の壁も、簡単に超えてしまいますから。だから『パーソナル』や『探究』の時間を通して、「得意なものがあれば、いろんなところでつながれる」ということを、子どもたちに体験してもらえればな、と思っています。
――「パーソナル」に続くものが「探究」と「フィールドワーク」ということですが、実際にどのようなことをされているのでしょうか?
那須野校長先生:『探究』と『フィールドワーク』は本校の中核のひとつで、この探究の要素を繰り返しながら学習し、8年間を過ごしていきます。具体的には、疑問出しをして、仮説を立てて、検証をして、プレゼンをする、というサイクルです。
たとえば1年生では、『オータムスクール』といって、日光(栃木県)の森に宿泊学習に行くのですが、その際、自分たちで『探究ノート』という疑問出しからデザインまで全部ひっくるめて書き出したノートを作り、それを持って森に行き、仮説を検証するんです。そこで得たものをベースに、帰ってきてからまた新たな疑問出しをして、自分たちで資料を集めて、検証をして、最後に全体の前でプレゼンをするということをしています。これを小学校1年生からやっています。当然、中にはプレゼンが苦手な子もいますが、おそらくみんな同じように「自分の思いを言葉にして伝える難しさ」というものを体験していると思います。
――教育活動や課外活動の中で、地域との関わり、他の学校や幼稚園等との関わりがあれば教えてください。
那須野校長先生:ユニークな活動のひとつは、世界的な規模で活動しているゴミ拾いのNPO『グリーンバード』という組織とタイアップをして、通学路のごみ清掃を繰り返し行っているところです。この時には保護者も子どもたちも一緒になって、地域の方も誘いながらやっていますね。岩槻には『鷹狩り行列』という行事があり、ここでもお祭りの前にごみ拾いの活動をしています。
――今後、力を入れていきたいことについて教えてください。
那須野校長先生:やはり一番は、授業のレベルアップですね。子どもたちがお互いの意見を伝え合い、理解し合い、探究的な深まりのある授業を展開していきたいと思っています。ただ、“探究”以外にも、しっかりと“教えこむ授業”であったり、子どもたち同士の“学び合い”であったりと、“学ぶ”ということにも様々な形があるので、それぞれをいかに凝縮するか、ということが課題です。それぞれがものすごい広がりと深まりをもって、子どもを支えていく基盤になるような授業を目指していきたいですね。
また、これは私の個人的な意見ですが、“自ら学べる人”ができれば、授業なんてなくてもいいと思うんです。授業もない、試験もないという中で、「なんで勉強をしているの?」と聞かれた時に、「楽しいからに決まっているじゃん!」と明るく答えられるような子どもたちを育てていきたいですね。
――9年生からは中高一貫部に合流して、最後の1年は受験に特化した1年間になるそうですが、それを見越して先取り学習をしているのでしょうか?
那須野校長先生:特に先取りをしているわけではないのですが、8年間やればどんなにゆっくり進めても中学校までの内容は終わってしまうんです。そうすると、中学3年生から高校1年生の内容に移るわけですが、高校生の過程というのはどうしても3年間が必要なボリュームなので、中3から3年間、高校生の内容をやって、最後の1年は大学受験を見据えた“総まとめ的”な時間になっています。これは全国で戦う時には、どうしても必要な時間なんですね。そこでそれぞれが、目標の進学先に必要な力を付けていきます。
ただ、総合部出身者のほぼ全員に言えるのは、大学名や偏差値で進学先を選んでいない、ということですね。“やりたいこと”で選んでいる生徒が圧倒的に多いです。そこが開智生の特徴ですね。「君の成績であればこの大学にしたほうがいい」と助言をしても、自身の強い意志を変える生徒はいませんから。
――最後に、東岩槻エリアの魅力について教えてください。
那須野校長先生:自然としては元荒川が自然豊かな場所で、朴訥(ぼくとつ)とした景色が残っているので、個人的には大好きな場所ですね。学園の周りには特に目立ったものはなく、良い意味で“何もない場所”なんですけれども、これは子どもたちにとってはむしろ良いことなのかなと。豊かな自然や落ち着いた時間が流れる街なので、やはり勉強は集中してできると思います。都心ではなかなかできないような、“のびのび遊び、じっくり学ぶ”ということが実践できる、学習には理想的な環境だと思っています。
まとめ
いかがでしたでしょうか。埼玉県岩槻市の閑静な雰囲気と自然のなかで育まれる、『開智小学校』の教育にかける情熱と子どもたちの自主性・主体性を尊重したプラグラム。小中高の12年間を一貫した教育環境における『総合部』、6年制の『中高一貫部』、3年制の『高等部』、選択する子ども本人も親御さんも、前向きに考えたい内容です。また、“学びの機会”を日常的に得るための異年齢学級は特に特徴的な試み。子どものうちから、年の近しいメンバーと交流することで得られる人生経験は、その後を生きていく力にもなりそうですね。これから埼玉県岩槻市への移住と、子どもの教育を考える際の参考にしていただければ幸いです。
開智学園総合部(開智小学校)
校長 那須野 泰 先生
所在地 :埼玉県さいたま市岩槻区徳力186
電話番号:048-793-0080
URL:https://kaichigakuensougoubu.com/
※この情報は2019(令和元)年12月時点のものです。
”自ら学ぶ”志高い子どもたちを育てる/開智学園総合部(開智小学校)(埼玉県)
所在地:埼玉県さいたま市岩槻区徳力186
電話番号:048-793-0080
https://kaichigakuensougoubu.com/