アートと書籍とオープンな空間が、鎌倉の縁を広げる・繋げる/佐助カフェ(神奈川県)
鎌倉市佐助2丁目、「鎌倉」駅から15分ほど歩き「銭洗弁財天宇賀福神社」へと向かう道沿いにある「佐助カフェ」。立ち寄りやすいロケーションとオープンな雰囲気から、地元住民や鎌倉散策をする観光客が、一休みにソフトクリームやコーヒーを注文したりとカジュアルに利用する一方で、書籍が並ぶ本棚や、さまざまなジャンルのアート作品の展示が行われるという店内は、鎌倉らしい文化的な一面も併せ持っている。
この「佐助カフェ」を2019(令和元)年10月に開業したのは、この地に暮らして20年ほどになる島崎亮平さん。かつては東京都内でバリバリと働くビジネスマンで、今はトレイルランニングに夢中のスポーツマンとのことだが、なぜこの場所にカフェを開くことにしたのか、その思いや、地元・鎌倉市佐助の魅力についてお話を伺った。
都内での会社勤めを辞め、好きなことで地元に交流を生むカフェを開業。
――まずは「佐助カフェ」開業のきっかけと、この場所を選んだ理由を教えてください。
島崎さん:以前から自宅はこの山の上にあり、会社勤めをしながら毎日この(「佐助カフェ」の前の)道を通って東京まで通勤し、仕事を終えて帰ってくるという繰り返しで、せっかく鎌倉に住んでいるのに、地元との関係はほとんどありませんでした。しかし、今後の人生を考えた時にそれではダメだと思い、「地元で何かをやろう」と思い立ちました。学生時代からアートと本が大好きだったものですから、そうしたものをテーマにしたカフェを開き、人々の交流の場にしたい、と思いました。場所については、初めから馴染のあるこの近くが良いと思っており、ご縁もあって、大好きなこの通り沿いにオープンすることができました。
――「佐助カフェ」のコンセプトを教えてください。
島崎さん:僕は、カフェというのはあくまでも「入れ物」だと思っています。それ自体には「色」が無いわけで、さまざまな色の付け方があるわけですが、僕は昔から興味を持っていた、「アート」と「本」をその「色」にしました。本当の意味でのカフェ文化を、この場所でなんとか表現できないかと思い開いた店です。
――お店に展示する書籍やアートは、どのように選んでいるのでしょうか?
島崎さん:書籍については、普段は、僕の蔵書です。家にあるもののうちの1割くらいを置いているのですが、“今の自分の頭の中”のチョイスなので、内容は時によってバラバラです。哲学、純文学、マンガなどいろいろあるでしょう。今は哲学に熱中しているので、そのジャンルの本が多めです。本を置いていると、お客さんの会話のきっかけが生まれたりするので面白いですね。過去には、実際に本を書いた方が展示をしたり、そういった人に会いたい・知りたい方々が集まって交流する場にもなることもありました。
アート展示に関しては、ジャンルは問わず「なんでもあり」で受け入れています。プロの方の作品だけでなく、本気で芸術に向き合っている方であれば、自由に表現していただける入れ物としてこの場所を使っていただいています。
具体的には、絵画、音楽、陶器、書、写真、布など、これまでにもいろいろな展示、コンサートを開催してきました。(店内の一角を指さして)そこに飾っている植物も、実は先日ワークショップをやっていただいた作家さんの作品です。過去の展示開催例はお店のホームページやSNSなどを見ていただければと思いますが、いろいろとチャレンジしています。ただ、「表現の場」でありたいということは軸としていまして、「アーティストが表現して、それに対してみんなが応える」ということがかたちになる、コンサートやミニライブなどは特に積極的に実施しています。
芸術家も多い鎌倉。誰でもアートに触れ、表現できる場所に。
――鎌倉は昔から芸術家の方々なども多く住む街として知られていますが、やはり地元の作家さんが多いのでしょうか?
島崎さん:そうですね。僕自身は、特に地元の作家さんでなければというようにこだわってはいませんが、やはりこのエリアには多くの作家さんがいらっしゃるので、おのずと地元の方が中心になっていきますね。それがまた、“ご縁”の広がりにも繋がっていると感じています。
観光で来られた方や、若い世代の方にも、ふらっと来て、アートに触れてもらえたら嬉しいです。ご自身がアーティストでなくても、感度の高い方が頭をシャッフルしたり、年代を超えて感性で繋がったり広がったりしていける場になればいいなと思っています。
――島崎さんご自身は、もともとどのようなお仕事をされていたのでしょうか?
島崎さん:「東京」駅の近くの企業で、金融の仕事をしていました。ただ、高校、大学の時から本やアートが大好きだったので、そういった仕事に就こうと思っていた時期もありました。今はそれを取り戻している感じですね。
――アートと書籍に関して、今後のビジョンなどがあれば教えてください。
島崎さん:2021(令和3)年の夏以降に、公募展を始めようと思っています。気軽に誰でも参加ができる公募展です。本職の方でなくても、本気でチャレンジしている人から広く公募して、参加費もできれば無料で、できるだけ多くの展示をしたいと思っています。店内の壁を作品で全部埋め尽くすくらいにしたいですね。 この公募展の会期は10~14日間程度の予定ですが、季節ごとなどで今後も継続して、循環させたいと思っています。その場で作品の即売などもしたいですし、会期後にはオークションを開催したいと考えています。
手作りメニューとオープンな雰囲気が地元客を中心に愛される。
――「佐助カフェ」のおすすめのメニューを教えてください。
島崎さん:メニューは全部手作りで、基本的に既製品は使っていません。中でも、コーヒーにはこだわっています。葉山の自家焙煎珈琲豆店「イヌイットコーヒーロースター」さんにお願いして、特別なブレンドを作ってもらっています。フードメニューでは、ハンバーグ、カレー、ホットサンドなどが人気です。 スイーツでは「佐助焼き」が珍しい一品かもしれないですね。オーブンで焼き上げた、小さなどら焼きのようなものです。他にも、チーズケーキやプリンなども全て手作りで美味しいですよ。
――どのようなお客さんが来られますか?
島崎さん:お客さんは、老若男女幅広くいらっしゃいます。土日はやはりビジター(観光客)の方が多いですが、平日は地元の人が中心で、子連れの方からご高齢の方まで来られていますよ。
最初は土日の観光客が中心になると想定していましたが、ふたを開けたらオープンから間もなくコロナ禍になってしまい、現在は6対4くらいで地元のお客さんのほうが多いですね。ただ、それはむしろ良かったとも感じています。この空間もイベントも、地元の方がすごく喜んでくれているので。また、「こういう人がいるよ」と知り合いの方を紹介していただいたり、何も意識しなくても、自然と輪が広がっているような状況です。
――店内の空間やインテリアについても、こだわりを教えてください。
島崎さん:これは結果論なんですが、空間全部オープンにできるような造りになっている事ですね。ライブの時などは全部開け放して、テラスでも音楽が楽しめるようになります。音が外に漏れることもあると思うので、コンサートの前には、ご近所の方に挨拶に行くのですが、こういったイベントに好意的な方ばかりなので、歓迎していただいています。
――壁に穴が開いているのは、展示のためでしょうか?
島崎さん:そうですね。この穴を使って、絵を掛けられるようになっています。フックは自由に動かせるため、全部外して一面を本棚にしたり、布を引っかけて展示したり、アーティストの感性で自由にアレンジできるようにしてあります。 材質もちょっと凝っていて、土壁に見えますが、実はモルタルなんです。谷中(東京都)の左官屋さんに来ていただいて、特別に塗ってもらいました。 もうひとつの小さな部屋は、モルタルにそのまま穴が開いた壁になっていて、無機的な雰囲気なので、有機的な壁と無機的な壁を使い分けて、変化を付けられるようになっています。
美しい山と海がすぐそこ。便利さを上回る魅力がある鎌倉・佐助エリア。
――佐助エリアの魅力と、おすすめの場所を教えてください。
島崎さん:おすすめの場所は、やはり「佐助稲荷神社」や、少し上にある「葛原岡神社」などですね。周辺の他のお寺や神社もどれも長い歴史があり、散歩をすると楽しい地域です。「源氏山公園」も四季折々の自然が楽しめます。僕はトレランが趣味なので、トレイル(登山道)が多いところも気に入っています。走っていると、すごく癒されるんですよ。あじさいや桜が山に自然に咲いているのを見ると、心から「あ、きれいだな」と思います。一方で少し歩けば海があり、朝日も夕日も見えて、そうした美しい環境に非常に恵まれている場所だと感じます。
それに、住んでいる人がすごくいきいきしている地域です。アーティストの方はもちろん、若い方も年配の方も、みんな何か「やりたいこと」を持っていて、そういう方って引退した人でもすごく元気なんですよ。そういう人たちが多いのも、僕がこの土地を選んだ理由ですね。
――暮らしやすさについてはいかがでしょうか?
島崎さん:例えば、大きな車を持ったりと、見栄を張る必要もない場所だなと感じます。そういう価値観を持った人が住む場所なので、お互いに理解もしあえて、会話が弾みます。都心と比べれば便利さでは劣るかもしれませんが、「鎌倉」駅までも近いですし、暮らしやすい場所だと思います。
――これから佐助エリアに暮らそうと思っている方に、一言メッセージをお願いします。
島崎さん:毎日都心に出るとなると多少不便ではありますが、この街にはそれを上回るメリットがあると思います。長く暮らすなら、こういう場所はいいと思いますよ。自分自身も世田谷、あざみ野、飯田橋と色々な地域で生活してきましたが、佐助がいちばん気に入っています。東京での仕事から帰ってきて、「鎌倉」駅を降りると空気が違うんですよ。そして、トンネル(佐助隧道)を越えると温度も湿度もまた変わって。ここに暮らせばきっと、人生にプラスになると思います。
佐助カフェ
店主 島崎亮平さん
所在地:神奈川県鎌倉市佐助2-18-15
URL:https://sasuke-cafe.com/
※この情報は2021(令和3)年6月時点のものです。
アートと書籍とオープンな空間が、鎌倉の縁を広げる・繋げる/佐助カフェ(神奈川県)
所在地:神奈川県鎌倉市佐助2-18-15
電話番号:0467-55-5226
営業時間:11:00~日没まで
定休日:不定休
https://sasuke-cafe.com/