「小・中一貫校」と「コミュニティ・スクール」 三鷹をダイナミックにリードする“一中”の学校運営/連雀学園 三鷹市立第一中学校 校長
「小・中一貫校」と「コミュニティ・スクール」
三鷹をダイナミックにリードする“一中”の学校運営
三鷹市の市役所近くにあり、地域の人々からは“一中”という呼び名で親しまれている「三鷹市立第一中学校」。三鷹市内では中学校の学区ごとに小・中一貫の「学園」を形成しているが、“一中”の学区は「連雀学園」という名が付けられている。今回はの三鷹市立第一中学校の松永透校長を訪ね、お話を伺った。
まず「三鷹市立第一中学校」の歴史についてお聞かせください。
本校は、昭和22年の4月に開校した、いわゆる新制中学校の第1期校でして、当時は「三鷹町立三鷹中学校」ということで、町内で唯一の中学校でした。ですから、現在でも地域の大先輩の方々には、「中学といえば一中」という方が多くいらっしゃいます。今年で創立66年になりまして、歴史的にずっと三鷹をリードする学校としてやってきた自負は、在校生も、もちろん卒業生も持っております。
平成20年からは「連雀学園」ということで小・中一貫教育校となりまして、ただ一貫というだけではなく、「コミュニティ・スクール」として、保護者の方だけではなく地域の方々も含め、学校の運営や教育活動の支援に積極的に参画できる仕組みが整いまして、「地域で子ども達を育てましょう」という空気が非常に醸成されてきました。
実はもともと三鷹というところは、40年以上も前から「コミュニティ行政」というものがありまして、市内に7つある「住民協議会」が、住民自治による地域運営を進めてきたという歴史があります。その点では、すごく「市民参加」ということに関して、伝統をもっていた地なんですね。
「コミュニティスクール」とはどんな仕組みなのでしょうか。
たとえば学校の「経営方針」については、普通ですと校長が決め、それを職員に示すものなのですが、「コミュニティ・スクール」では、地域の人が一定の権限を持っていて、校長が提案した方針を地域の人で協議し、承認し、初めて実行に移されるという仕組みになっています。地域の人にも権限と責任をもってやっていただいていますから、「地域住民は学校運営のパートナーである」という位置づけになりますね。株式会社のようなものです。
市内でも大規模な中学校であるとお聞きしました。そのメリットとは?
連雀学園の学区には小学校が3つ(四小、六小、南浦小)ありまして、全部の小学校の学区が中学校の学区にすっぽりと収まっていますので、これらの小学校を出た子どもたちは、全員一中に来るという形になります。もちろん私学を受けられて、抜けられる方もいらっしゃいますが、小・中一貫の良さがご理解いただけるとともに、だんだん進学してきてくださる人数も増えていまして、現在は727人という、市内では最も大きい中学校になっています。
メリットとしましては、ひとつは、教職員の数が多いので、人が多く、いろんな持ち味を持った先生が子どもに関わってくれることですね。もうひとつは、学校行事がとにかく“ダイナミック”です。
小中一貫の特色とは何でしょう?
ひとつはカリキュラムです。三鷹市では基本的に国の学習指導要領に基づいたカリキュラムで進めていますが、普通の学校ですと、たとえば算数や数学などは、中学校の先生が、小学校ではどんな指導が行われているのかを分からないままに指導していることが多いんですね。しかし、「小学校の何年生でどんな学習をしているか」ということを中学校の先生も知っていれば、「何年生の時に何をどこまでやったよね」ということが言え、子どもたちの頭に、すっと新しいことが入ってくるんです。
三鷹市の学校には、その辺りをまとめた「単元の系列配列一覧」という資料がありまして、「9年間の中で、今日行う授業はどこに位置づくのか」ということを、先生方はいつも把握して、授業をしていきます。そうしますと、今日やったことが、今後どの場面でどう役立っていくのか、反対に、今日やったことが把握できないと、その子が今後どこでつまずいてしまうのか、すべて分かるんですね。これを分かって授業を行うのと、ただ教科書に沿って授業を進めるのとでは、全然子どもたちの定着が違うんです。これはすべての教科に共通して言えることで、「今日の授業が9年間の中でどの位置づけにあるか」ということを考えながら、カリキュラムを作っています。
もうひとつは、「子どもたちの交流」です。同じ「連雀学園の子ども」と一体感をもって交流することで、例えば中学生が小学生の面倒を見たりする場面が生まれ、非常に自己肯定感、自己有用感が育ちます。中学生ともなれば家で叱られることも多いのですけれども、小学校に行って、特に低学年の子どもたちのお世話をすると、「自分は大人なんだ」ということを理解し、頼られることで自尊感情が高まり、子どもたちは伸びていきます。
小中で担任、教科担任、クラブなどの連続性はあるのでしょうか。
法律上は別々の学校ですが、学園内の小学校と中学校の教員は、東京都の教育委員会から「兼務発令」というものを受けておりまして、小学校に中学校の先生が行って授業をしたり、逆に、中学校に小学校の先生が来たりして交流しています。「中1ギャップ」という言葉もありますが、よく知っている小学校の担任の先生が、中1の授業に入ったりすると、子どもたちはとても安心して、定着がスムーズにいくんですね。
中学校の先生が小学校に行く場合も、特に高学年の子には、「中学校に行ったらこういう先生に教わるんだ」ということが分かりますから、垣根が低くなります。本校では現在、算数・数学と、理科でこのような相互乗り入れ授業を行っています。
その成果もあって、進学校として知られるようになっているのでしょうか。
確かに、都立のトップ校に進学する子の数はここ数年増えていますね。たとえば西高(東京都立西高等学校)、国立(東京都立国立高等学校)、立川(東京都立立川高等学校)、日比谷(東京都立日比谷高等学校)、戸山(東京都立戸山高等学校)など、都内有数の学校に進学する子どもたちはけっこういます。中学から私学に行かれて名門を目指す、というのもひとつの考え方ですけれども、公立中学校も今は本当に落ち着いた教育環境の学校がありますので、そういったところで力を付け、高校受験をするというのも、ひとつの方法だと思っています。
実際私学を出た方などに聞いてみましても、「地元の友達」は中学校までの間に多く作れるものなので、そういう環境で学習するというのも良かったな、とおっしゃる方も多くいました。
三鷹市ではすべての公立校が小・中一貫となりましたが、地域内のすべてが一貫校になっている自治体は、ほかにあるのでしょうか。
横浜市などは今後全校を小・中一貫にするという話ですが、もうひとつその上に「コミュニティ・スクール」という言葉が付いて全市展開しているのは、三鷹市だけかと思います。
実は三鷹市では、小・中一貫化に先立って、平成18年からコミュニティ・スクールに取り組んでおりまして、国の教育政策に関わる会議でもよく議論されていますように、国全体的としても、将来的には小・中一貫校とコミュニティ・スクールをセットにしていこう、という流れになっています。ですからこの三鷹方式というのは、モデルケースとして全国的に注目されているんです。
一中の子ども達の様子、特色についてお聞かせください。
非常に「頑張る」子どもたちが多いですね。子どもたちもそうなんですけれど、やはり地域の方々や保護者の方々が、すごく愛情を注いで育ててくださっているからだと思います。それが子どもたちに現れているのでしょう。
部活動などもそうですね。たとえばサッカー部などは、去年は都大会制覇(優勝)しまして、関東大会にも出場しました。公立で都大会制覇というのは、とても奇跡的なことなんです。ほかの部も良い成績を収めています。文武両道の子ども達が多いですね。
地域の方が運営面以外に、学習や課外活動で関わることはあるのでしょうか。
いわゆる「学習支援ボランティア」の形で、頻繁に学校には来ていただいています。コミュニティ・スクール委員会の中に、「サポート部」という部会があるのですが、そこが色々とコーディネートしながら、先生方のオーダーに従って、例えば家庭科で調理実習があるとすれば、その部会に「地域のお母さん方に何人か来て頂けないか」という声がかかるんです。
昨年は「ミッションC」というものも行いました。Cは「クリーン」のCで、市内の清掃活動なんですけれども、これも小学生と中学生で一緒にやりましょう、ということで児童会と生徒会が中心となって企画し、コミュニティ・スクールでサポートに入っていただき、実現したものです。
中学校ですので、基本的に大人は、「口を出す」のではなくて「見守る」ということで関わっています。お仕着せのものをさせるのではなく、「子どもたちの発想を生かし、サポートしていく」というもう一歩上のレベルまで、“地域力”は高まっているのだと思っています。自治体にサービスの提供を期待するのではなく、保護者の方や地域の方も“教育の当事者”として関わり、「一緒にいい学校を一緒に作りましょう」という、そういう感覚なんですね。
学校としても、地域を、学校をより良くするための「パートナー」として見ていくことができますので、これはすごく良いことだと思っております。
最後に、上連雀エリアの魅力についてお教えください。
一中の辺りは市役所、図書館、太宰治の墓、ジブリ美術館など、文化的な施設が集中している地域ですので、子どもたちの学習環境としては、すごく良いものが揃っていると思います。あとは何よりも、地域住民のパワーがあることでしょうね。緑も多くて、どなたにも住みやすい土地だと思います。
今回、話を聞いた人連雀学園 三鷹市立第一中学校校長 松永透先生 住所:東京都三鷹市下連雀9-10-1 ※記事内容は2014(平成26)年3月時点の情報です。 |
「小・中一貫校」と「コミュニティ・スクール」 三鷹をダイナミックにリードする“一中”の学校運営/連雀学園 三鷹市立第一中学校 校長
所在地:東京都三鷹市下連雀9-10-1
電話番号:0422-44-5371
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