魂を込めて、お客さまの心を満たしたい。 “本物”の追求と、“何でもできる場所”への挑戦。/酢飯屋/suido cafe/水道ギャラリー 岡田大介さん
魂を込めて、お客さまの心を満たしたい。
“本物”の追求と、“何でもできる場所”への挑戦。
「江戸川橋」駅から歩いて3分、神田川を渡った住宅地の一角に、大正時代に造られた一軒家を改築し、営業をしている店がある。寿司職人・岡田大介さんと弟さんが営むのは、夜限定の完全紹介制の寿司屋『酢飯屋』と、昼間に各地の郷土料理や多彩なジャンルの料理を週替わりで提供する『suido cafe』、それから企画展示や商品販売を行う『水道ギャラリー』と様々。「保育付き寿司ランチ」「酢飯屋バーベキュー」などユニークなイベントにも挑戦しながら、日本全国を飛び回り、食材から道具に至るまですべてにこだわる代表の岡田さんに、お店のことや地域に対する思いについてお話をうかがった。
まず、岡田さんが寿司職人になられるまでの経緯を教えていただけますでしょうか。
料理の道を志したのは19歳の時です。きっかけは母親が亡くなったことでした。食事を自分達で用意しなければならない日々が始まったのですが、僕も父親も当時全く料理が作れなかったのでコンビニ弁当の日が続き、一ヶ月もすると10才程離れた幼い弟や妹が体調を崩してしまったのです。「これは食べ物がまずいに違いない」と思い、料理を習おうと決心しました。
最初はフレンチやイタリアンなどのほうが格好いいなとも思ったのですが、家族に毎日食べさせるならやはり和食がいいだろうと思い、日本料理店に弟子入りしました。
海の無い千葉県野田市というところで育ったので、最初は魚のことなど全くわかりませんでした。アジを見てもそれがアジとわからなかったくらいです。先輩にも笑われましたね。でも逆にゼロからスポンジのように全てを吸収しました。寿司、割烹、懐石料理などについて基礎から修業を積み、2004(平成24)年に独立して完全予約制の寿司屋を新富町で開業しました。
お店を開く場所にこの街を選んだのはなぜでしょうか?
独立して最初の店は新富町の自宅マンションでしたが、2009(平成17)年にこの江戸川橋で店を開きました。
ここは神楽坂や飯田橋が近いですが、決して商売向けの場所ではないと思いました。しかし、住んでいる人たちにとっては人の流れが穏やかで調度良く、落ち着いた街だと思ったんです。
僕にとっても同じで、やりたいことを丁寧に、自分達のペースでできる調度いい場所だと思いました。例えば神楽坂だと、どんどんどんどん人が入って来ますよね。僕の店でやりたいことは、それではブレてしまうと思ったのです。 あとは、近所の建築事務所の友人がこの建物を見つけて「好きそうな物件があるよ」と教えてくれたことも良いタイミングでした。
いろいろなことにこだわり始めたきっかけは何だったのでしょうか。
25歳で独立し、お店を始めた当初はここまでこだわってはいませんでした。毎日毎日をがむしゃらに勢いでという感じ。でも、あるとき、お寿司を食べに来てくれた友人に「“本物”にしか興味がないというふうにしていったほうが良いよ」と言われたんです。最初はピンとこなかったんですが、考えてるうちにだんだんしっくりきて、身の周りから偽物を排除するのが気持ち良くなっていきました。
そして、あるものにこだわるというのを始めだすと、“こだわっていないもの探し”も始まりました。「酢飯屋」の名前の通り酢飯にこだわっていたのですが、“酢飯にこだわるけどお茶にこだわらない”とか、“お茶にこだわるけど醤油にこだわらない”とか、何かおかしいじゃないですか。そうして、26、7歳のころから“本物”を見つけてそうでないものと入れ替えていくことが、日々の思考の癖として身についていきました。
岡田さんが考える“本物”とは?
基本的には人の手で丁寧に作られていること、そして線引きにおいて最も重要なのは、“誰が作っているかを把握できる”ことです。そこから先の、それが“本物”かどうかというのは個人の価値観になると思います。
例えばイカのお寿司を握って出すとき、一生懸命握って出したイカのお寿司が、回転寿司で食べたものと違いがわからないときもありますよね。じゃあ、その違いは何かというと、それは素材であるイカにあります。
僕はそのイカを自分で獲ってきたり、信頼している漁師から買ってきたりしています。でも一方では、誰が獲ったかわからなかったり、そもそも日本で獲れたイカではなかったりするのです。自分の口に入るものが何かわからないのは気持ち悪いですよね。自分が全てに気持ちを入れられるかどうか。魂の入ったイカを手に入れ、そしてさらに自分がそれに魂を入れて握ることを大切にしているのです。
いい食材を求めて、北から南まで日本各地いろいろなところへ足を運んでいらっしゃるそうですね。
はい。たとえばジンジャーエールがあると、その食材の生姜とか水とかハチミツとかが気になります。そしてそれらを、誰がどこで作っているのかを見に行くのが好きなのです。実際に自分の目で見て来ると、お客さまにちゃんと伝えられますから。なので、できる限り自分達が使う食材や道具などは、可能な限り現地に足を運び、五感で確かめ、自分達で作れるものは作る、獲れるものは獲りに行くようにしています。
純粋に、「うちの親戚が農家だから見に来て」とお客さまに言われて行ってみることもあります。自分の足であちこちに行きます。本来は産地直送と言えばOKなのかもしれませんが、それは自分のスタイルとは違います。
実際はとんでもなく大変です。最初はとにかく勢いで飛び込んで行きましたから、どこでもウェルカムで受け入れてくれたわけではありません。でも日本は、北から南まで本当にすごく面白くて魅力的だと思います。知らない街に行くと必ず知らないものがあって、刺激を受けて帰って来るんです。 あと僕は、そこに自分の家族を連れて行き同じ時間をすごすことも大事にしています。
食材だけでなく器にも凝っていらっしゃいますね。
食べ物に関しても器に関しても思いは同じです。魂のこもったお寿司を一皿に盛る時、その器も誰が作ったか把握しておきたいのです。乗せるお皿も良くなければ、せっかく仕入れてきたものが活きません。最終的に口に入った時に、お客さまにどう感じてもらえるか。お腹を満たすためだけであればここまで追求する必要はないのかもしれませんが、僕はお腹を満たすことは求めていません。心を満たすお寿司をつくりたいのです。
お寿司だけでなく『suido cafe』も開いたのはなぜなのでしょうか。
こだわりをもって日本各地に行きますが、もちろん、海に隣接していないところもあります。寿司屋なので使う食材は米とか魚とかがメインなのですが、野菜や豚肉、卵など、あらゆる食材と出会います。それらを情報として持って帰って来たときに、寿司屋だけで発信するには物足りなくなってきました。
たまに夜の寿司屋に出すときもありましたが、それにも限界があり、自分の考えていることとズレてきたので、思い切ってやるには昼がいいかなと思ったのです。
それに、夜の寿司屋のような予約制や紹介制の店というのは、この場所にあっても近所の人たちにとってあまり意味がないですよね。地元の人と一緒でなければ閉鎖的な店になってしまうと考えました。
『suido cafe』は年中無休というのもポイントです。“いつ行ってもやっている”というのは地元の人にとって、ちょっと寄って買い物ができる場所なのです。
自社商品の展開もされていらっしゃるんですよね。人気商品は何ですか?
喜界島のさとうきび粗糖を使った「黄金糖のラスク」が一番よく売れますね。弟の奥さんがパン屋をやっているので、ラスクにするためにベストなパンを特注で作ってもらっているんです。 ラスクとか羊羹とか、手土産を買って行ける店が近くにあるのはご近所の方に便利だと思うので、今後もそういった商品には力を入れていこうと思っています。
カフェで定期的に行われている、「保育付き寿司ランチ」という企画も面白いですね。
託児付でお店を利用できるサービスを行っている「ここるく」の代表・山下さんと知り合いで、子育てについて話をしたのがきっかけです。山下さん自身もお子さんのいるママで、自分も2人の子どもがいるので、子育ての経験や体験を何かお店に活かせないかと考えていました。寿司屋というのは子ども連れでなかなか行き難いお店ですからね。
ママには育児を離れてリラックスしてお寿司を堪能してもらい、子どもたちは2階をキッズルームにしてプロの保育士さんと一緒に年齢(月齢)に応じた遊びをしたり、子ども同士の交流を楽しんだりしてもらいます。リピーターも多いですね。
ほかにも産後ヨガを企画してこの店でやったこともありますね。なるべくこういった企画にも、お寿司を絡めるようにしています。
企画展示スペース『水道ギャラリー』もありますが、こちらはどのように使用されているのでしょう?
ここは“何でもできる場所にしたい”と思っていました。バーベキューをしてみたり、室内お花見会などをしたこともあります。現在は基本的にはギャラリーに落ち着いていて、企画展などをだいたい一週間毎に入れ替えています。そのテーマは、作家の方たちと打ち合わせをして決めています。たとえば、今欲しい器とかを企画のテーマにして作ってもらうというような感じです。
季節に合わせて夏には「アイスをたのしむうつわ展」、秋には「炊き込みご飯と茶碗蒸し展」とか。器以外にも色々と展示します。
常に、“やりたいことは、やってみる”と思っています。夜の寿司屋という軸はぶらさずに、それ以外の時間帯と場所はなるべく幅を広げて楽しめる店にしたいと思っています。例えば、1カ月くらいパン屋にしてみるとか、やってみたいですね。
最後に、岡田さん自身もご家族とこの江戸川橋エリアにお住まいだそうですが、
暮らすという視点ではどんな街だと感じますか?
4歳と1歳の息子がいますが、この街で生まれてこの街ですくすくと育っています。ここは少子化を感じられないほど子どもが多いですね。文京区は区長が保育園の待機児童ゼロを目標に掲げているので、そうした点でも子育て世帯にとっては期待できる街ではないでしょうか。
今回、話を聞いた人
株式会社酢飯屋
代表取締役 岡田大介さん
住所:東京都文京区水道2-6-6
電話番号:03-3943-9004
http://www.sumeshiya.com/cafe/
※2014(平成26)年8月実施の取材にもとづいた内容です。 記載している情報については、今後変わる場合がございます。
魂を込めて、お客さまの心を満たしたい。 “本物”の追求と、“何でもできる場所”への挑戦。/酢飯屋/suido cafe/水道ギャラリー 岡田大介さん
所在地:東京都文京区水道2-6-6
電話番号:03-3943-9004
営業時間:11:30~13:30、13:30~17:00(カフェタイム)
定休日:年中無休
http://www.sumeshiya.com/cafe/