「敷居の高くない日本料理店」を目指して。/賛否両論 料理長 丹下陽介さん
言わずと知れた和食の名店「日本料理 賛否両論」。その2号店となる名古屋店は、池下の閑静な住宅街にある。今回は、昨年4月より料理長を任される丹下陽介さんに「賛否両論」のこだわりから池下エリアの魅力まで、たっぷりとお話を伺った。
――まずは、「賛否両論」のコンセプトをお聞かせください。
丹下さん:一言で言うと、「敷居の高くない日本料理屋」。これにつきます。マスターの笠原将弘は「日本料理界のユニクロになりたい」と表現することがあります。
低価格で良いものを提供する。そのために、食材も高級なものばかりではなく、スーパーで一般的に手に入る食材も多く使っています。それを料理人が丁寧に手をかけることで美味しく仕上げ、お客様に満足していただくことを目指しています。
――2号店となる名古屋店について教えてください。
丹下さん:名古屋店は2013(平成25)年9月にオープンしました。本店との一番の違いはお店の規模です。恵比寿本店の18席に対して、名古屋店は45席あります。建物もゆったりとした造り。お庭がかなり広くて、お客様にゆっくりと食事を楽しんでいただけます。
お料理に関しては、本店も名古屋も同じ価格。6,500円の「おまかせコース」が基本のコースです。献立は2週間ごとに変わり、すべてマスターが決めています。
――おすすめのメニューを教えてください。
丹下さん:今の時季は稚鮎ですね。稚鮎を春巻きの皮で蓑虫みたいに巻いた「稚鮎の春巻き」は、毎年5月に出す定番メニュー。パリっとした食感が美味しいです。夏は鱧がおすすめですね。季節感を大切にし、必ず旬の食材を使ったお料理をお出ししています。
――丹下料理長のこだわりを教えてください。
丹下さん:僕が料理長になったのは去年の4月。ちょうど1年になります。初代の料理長の頃から、おかげさまで「美味しい」と言っていただけていたので、そこは引き継ぎながら、「賛否両論は楽しかった」と言われるような演出がしたいと考えています。
――お客様に人気の演出を教えてください。
丹下さん:八寸という大皿の料理で、大きいお皿の上に豆皿を並べて料理を盛りつけ、5種盛りくらいで出しています。特に女性のお客様は「わー」っと喜んでいただけますね。これは名古屋で始めたことなんですが、マスターが「これいいね」と逆に恵比寿でも取り入れられています。
もうひとつ、日本酒専門の酒屋さんと組んで、うちの料理に合う日本酒をマリアージュさせてもらっています。料理ごとにお酒が全部変わり、日本酒の瓶を持っていってご説明しながら飲んでいただきます。おちょこもたくさんある中からお好きな物をお客様に選んでいただくのですが、楽しんでいただけているようです。
――マスターはよく名古屋に来られるのですか。
丹下さん:毎月1回、3日ほどこちらに来ます。その際に翌月の料理の打ち合わせをします。手書きの献立を渡されるのですが、今は3分の2くらいは話さなくてもどういう料理か分かりますね。
新作のメニューがある時には「どんな感じですか」と聞きますが、「こう作って」とか、「分量は何cc」とか細かいことは言われません。それをすると、感性や味が育たないからだと思います。お客様に提供する前に、一品一品料理を細かくチェックすることはしないですね。来るとすぐに出汁とみそ汁は飲むのですが、その2つで大体できているかどうか分かるみたいです。
――マスターはどんな方ですか?
丹下さん:じつは僕は料理界にきてまだ6年目。その前はユニクロで店長をしていました。小学生の頃から、女の子に混ざって料理クラブに入ったり、料理はずっと好きでしたね。料理の本もたくさん持っていて、マスターの本も集めていたんです。ユニクロをやめて2年ほど岐阜市の割烹料理屋で修業をしていた時、偶然にも賛否両論が名古屋に来ることを知りました。知人を通じて履歴書を送ったところ、2日後にマスター本人から電話がかかってきて。もう鳥肌ですよ。面接は「居酒屋に行ったら最初に何を頼む」とか、「好きなお笑い芸人はだれ」とかそういう感じ。僕の料理の腕も見ずに、それだけでしたね。
僕はマスターの作る料理が好きですし、選ぶ器のセンスも好きです。ユニクロになりたいというコンセプトもぴったり合っていますし、本当に出会いってあるんだなと思いますね。
マスターは本当に魅力的な人。ものすごく少年だなと感じることも多くて、自分が楽しいから、こういう料理を作りたいからやっているところが好きです。お手洗いに「血の掟」という紙が貼ってあるんです。賛否両論名物なんですけど、毎年1枚、マスターが書くのですが、ネタ帳というか、全部ギャグなんです。お客様は皆さんそれを読んで、全然お手洗いから出てこなくて。お椀が冷めちゃうんです(笑)
――丹下料理長は料理講座や食育講座などにも取り組まれていますが、その理由や想いについて教えてください。
丹下さん:食育は農林水産省の「和食」継承事業の一環で、出汁の授業をしたりしながら、一緒に給食を作る取り組みです。マスターは東日本の代表で、僕は中部地区の何人かいる料理人のひとり。まだスタートしたばかりですが、とても有意義な取り組みだと思います。
伺った中学に料理を好きな男の子がいて、僕のことをすごくしたってくれて。料理コンクールに応募したのですが、太刀魚を下ろした料理にチャレンジしたいということで、学校から頼まれて、大会前に少しアドバイスをしました。そしたらなんと、約2,000人の中で準グランプリになったんです。彼は今年から調理し専門学校に進学して、6月からうちにアルバイトに来るんです。
文化を引き継ぐということは、温かいものがなくてはいけないと思っています。人に惹きつけられるとか、その人の料理が好きだとか、そういう部分があると強い。今回それができたので、本当に良かったと思っています。
――続いて「街の魅力」についてお聞きします。この街の魅力や個性はどんな点にあると感じますか?
丹下さん: 都心に近いベッドタウンというイメージですね。特にこの辺りは静かですし、地下鉄東山線で「名古屋」駅から1本で、便利なところだと思いますよ。
――おすすめの場所やお店があれば教えてください。
丹下さん:この辺りには小さないいお店がたくさんあります。最近僕がよく通っているのは、「松楽」というお好み屋さん。おじさんとおばさんがふたりで36年間続けているのですが、お店が本当にきれい。鉄板焼きのお店はベタベタすることが多いと思うのですが、それが全然なく、鉄板もすごくきれい。料理人として、すごく素敵だなと模範にしたいと思えるお店ですね。
――最後に、これから池下エリアに住みたいという方に向けて、メッセージをお願いいたします。
丹下さん:「日本料理屋の良いところは、お客様の人生に関われることだ」。初めてマスターに会った時にそう言われました。例えば、デートで訪れたり。その後結婚して子どもが生まれたら、お食い初めをする。七五三のお祝いをする。亡くなった後も法事で使っていただいたり。生まれてから亡くなった後まで、人生の節目節目で関わることができる。
京都には、各家庭ごとにお世話になっている料理屋さんがあるそうです。池下エリアに住まれる方とは、そういう関わり方、文化を作っていけたら良いですね。
料理長 丹下陽介さん
所在地 :愛知県名古屋市千種区高見2-1-12 ナゴヤセントラルガーデン
電話番号:052-753-7677
URL:http://www.sanpi-ryoron.com/
※この情報は2017(平成29)年5月時点のものです。
「敷居の高くない日本料理店」を目指して。/賛否両論 料理長 丹下陽介さん
所在地:愛知県名古屋市千種区高見2-1-12 ナゴヤセントラルガーデン
電話番号:052-753-7677
営業時間:11:30~、13:30~、18:30~21:30(L.O.)
定休日:月曜日(祝日の場合は翌日)
http://www.sanpi-ryoron.com/