校長 薄井康裕先生インタビュー

「元気・やる気・根気」を育てる/世田谷区立千歳台小学校


緑豊かな恵まれた環境のなか、多様な学校行事や姉妹校との交流を通して、伸びやかな子どもが育っている「世田谷区立千歳台小学校」。「子どもたちには1日にひとつの“わかった”を持って帰ってほしい」と語る薄井校長先生に、学校の教育活動や周辺環境についてお話を伺った。

薄井校長先生
薄井校長先生

遺跡も見つかっている歴史ある街の小学校

――学校の沿革や概要を教えてください

薄井先生:本校は1980(昭和55)年4月1日に開校した、世田谷区内で64番目にできた比較的新しい学校です。学校を建設する際の調査で、この場所から先土器時代の遺跡が発見され、土器が3,000点も発掘されました。古代からこの周辺が、水源の多く暮らしやすい環境であったことを示すものだと思います。

出土した土器の一部が展示されている
出土した土器の一部が展示されている

資料や紹介文献なども収集
資料や紹介文献なども収集

開校4年目には特色のある教育活動を行うという目標のもと、群馬県の川場小学校と姉妹校提携を行いました。川場小学校との交流は「姉妹校」という名前だけのつながりではなく、子どもたちの実際の交流を通じて深く長く続いています。

廊下
廊下

――教育目標や経営方針について教えてください

薄井先生:教育目標は、校歌にもある通り「進んで体をきたえる子ども(元気)」「深く考えくふうする子ども(やる気)」「力を合わせてやり抜く子ども(根気)」「心を合わせ楽しい学校をつくる子ども」としました。
目指す学校像としては、「この学校でよかった」と思えるような、1日ひとつは「わかった!」という気持ちを持って帰れるような学校にしたいと考えています。そのために、「自ら考え的確に判断し、実践できる子ども=生き抜く力」とし、予測しにくいこれからを生き抜く子どもたちが、人と関わる力や社会規範、道徳的価値観などを身につけつつ、論理的かつ的確に判断できるように指導をしていきたいと考えています。

今年度は、行事やイベントに関して、しっかり「ねらい」を達成するための活動になっているかを考え直したり、指導の基本である「千歳台スタンダード」を整理するなど、40周年を迎える来年度に向けて「断・捨・離」を行う予定です。

ログハウス
ログハウス

――具体的にはどのような学びを実践される予定ですか?

薄井先生:今年度は校内研究テーマとして「すすんで考えを表現し、学び合う児童の育成~対話的学びの視点から~」を掲げており、特に算数を研究授業科目として「対話的な学び」「対話の育み方」など、「対話」に重きを置いた学習会を実施する予定です。
また、これまで継続的に行い「日常化」を図ってきたことではありますが、朝時間を利用しての「朝運動」「朝遊び」「朝学習」などを通じて、朝の15分間を有効に活用しています。朝の授業前に、子どもたちの体力向上、基礎学力の定着、読書の習慣を身につける時間を確保することは、非常に有効に蓄積されていると感じます。

校庭
校庭

校庭
校庭

このほかにも「ことばの力(言語力)」の育成・向上を目指して、毎週月曜日の全校集会で6年生が1分スピーチを行うことにしており、6年生全員が1回は必ず話す機会を得るようにしています。話題は自分の興味のあることであれば、どんな話でもOKなので、時事に関することや自分の目標など様々な話題があがります。全校生徒630人の前で原稿を読まずに話をするというのは大人でもなかなか難しく、さぞかし緊張すると思いますが、6年生は抑揚をつけたり感情をこめたり、実に立派な態度でやり遂げます。

画家にも愛された遺跡の街・りんご園の街

画家の谷内六郎氏が寄贈した壁画
画家の谷内六郎氏が寄贈した壁画

壁画の説明文
壁画の説明文

――校門前にある大きな壁画がとても印象的ですね?

薄井先生:これは「週刊新潮」の創刊号から約26年間、表紙絵を描き続けた谷内六郎氏が近隣に住んでいらっしゃったことから、本校の校門入り口付近に『芽生え』という名前のモザイク壁画をプレゼントしてくださったものです。本校のシンボルであるこの壁画は、千歳台遺跡をモチーフに水のほとりで古代人の家族が穏やかに暮らしている様子が描かれています。
このモザイク画に使用されているタイルは、スペインのタイル職人に特別に発注して作ってもらったものだそうで、どの部分にどのタイルがくるのか番地を決めてはめこんだと聞いています。世田谷美術館に原画が保管されていますので、毎年校外学習の際に見せていただいています。

カラフルな卒業製作品が目を引く玄関
カラフルな卒業製作品が目を引く玄関

――川場小学校との交流について詳しく教えてください

薄井先生:今年で35年目を迎える川場小学校との交流は、毎年5年生が川場移動教室に参加して、現地で川場小の子どもたちと顔合わせを行い、グループごとに分かれ、一緒に遊ぶ時間を持ちます。これは、世田谷区内61校の小学校の中で、本校のみが行っている取組です。冬には同じく5年生が2泊3日で川場でスキー交流を行い、一緒にスキーを練習します。
そして6年生になった7月末には、今度は川場小の子どもたちが千歳台小学校を訪れ、ゲームをしたり一緒に給食を食べたりと交流を深めます。その際には川場小の子どもたちは、千歳台小の子どもたちの家に1泊ホームステイするという、貴重な経験もしてもらいます。普段の生活でも友達が家に泊まるという経験はなかなかありませんから、これは子どもにとっても新鮮で、よい経験になっているようです。最近の子どもたちはドライだなんて言われていますが、川場小の友だちを送り出すときは、涙でお別れをする子どももいて、心が温まります。
全3回に渡って交流を行うので、お互い本当に仲良くなるようです。その後も文通や電話などのやりとりが継続し、高校生・大学生になっても交流が続いているという話もよく聞きます。

ランチルーム
ランチルーム

校内の設備
校内の設備

――船橋希望学舎における、船橋希望中学校との連携について教えてください。

薄井先生:世田谷区では「世田谷9年教育」として、各小・中学校での主体的な教育活動を尊重しつつ、義務教育9年間を一体ととらえて「学舎」というグループをつくり、より質の高い義務教育を実現するために取り組んでいます。
「船橋希望学舎」は、船橋小学校・希望丘小学校・千歳台小学校の小学校3校と船橋希望中学校が一体となって、丁寧に連携を取り合っています。各学期ごとに4校の校長が集まり、学校のことや子どもたちのことを忌憚なく話し合っています。例えば中学に入ってからつまづきやすい部分や、基礎力が不足しているように感じる部分を教えてもらえれば、進学前に強化することもできます。また子どもたちの生活の様子などについても、小学校から中学校へ申し送りがきちんとできていれば、中学校の先生方にも気にかけていただけたりと、小中の連携は子どもにとってもプラスになる取り組みだと感じます。
「あいさつキャンペーン」期間に中学生が1週間ほど校門に立って、小学生たちに声かけをしてくれたりと、子どもたち同士が交流する機会もあり、小学生にとっては憧れの中学生と直接触れ合える貴重な機会になっているようです。

新入生の入学を祝う飾り
新入生の入学を祝う飾り

――ユニークな取り組みやイベントはありますか?

薄井先生:6年生を対象にした「建築家によるワークショップ」という面白いイベントがあります。これは建築家の方を中心にして、長さ1.8メートルと0.9メートルの2種類の角材と大きな輪ゴムを使って、家などの立体的な構造物を作る空間ワークショップです。図工の時間に班で相談しながら設計図を書いて準備を行います。当日は各班に建築家の先生がついてくださり、様々なアドバイスをくださいます。6年生が自分たちで家を組み立て、校庭一面に立体的な構造物が広がる景色は圧巻です。

素朴で落ち着いた子どもたちを育む地域の力

図書室
図書室

先生たちのおすすめの本を紹介
先生たちのおすすめの本を紹介

――地域のみなさんと一緒に行っている取り組みなどはありますか?

薄井先生:「子ども安全ボランティアの会」という地域の方々の見守りの会があり、朝と下校時の見守りをしてくださっています。4月にメンバーの方々を紹介する会があり、3月には1年間見守ってださった感謝を伝える「感謝の会」も開いています。
また地域の材木屋さんが企画してくださる、「木工まつり」というイベントがあります。これは椅子やテーブル、小物入れなどが作れるように材料を全て無料で材木屋さんが準備してくださり、トンカチや釘の使い方を教えてもらいながら、子どもたちが自分で木工作品を作ります。自分の手で作った作品は思い入れがあるようで、子どもたちは大切そうに持ち帰りますよ。

――どのような子どもたちが多いのですか?

薄井先生:子どもたちは非常に素直で、伸びやかな性格の子が多いと感じます。全校児童約600人が全校集会などで集まっても、シーンと静かになりますし、実に落ち着いています。世田谷区というと都会というイメージがあるかもしれませんが、この辺りはのどかで静かな環境なので、そういうことも影響しているのかもしれません。

1年生の学校探検のために、2年生が描いた絵
1年生の学校探検のために、2年生が描いた絵

――PTAや保護者の方々の様子はいかがですか?

薄井先生:本校のPTAは、谷内六郎先生のモザイク壁画にある木の芽生えから「めばえの会」という名前がついています。毎年「めばえの会」主催の「めばえ祭り」も行われ、子どもたちを楽しませるお祭りを企画してくれています。
また「デバンデス」という父親たちの会もあり、とても活発に活動しているのも特徴的です。子どもの稲作体験のための田んぼを、校庭の隅に作ってくださったり、毎年夏休みの最後の土日に学校キャンプを主催してくださっています。この学校キャンプには3年生以上の児童が参加でき、体育館にテントを張って宿泊をします。テントの数も80以上と、なかなか圧巻の風景です。デバンデスが企画した「おばけやしき」もあって、学校を使った本格的なおばけやしきなので、子どもも泣き出してしまうほどの迫力です。

「デバンデス」が校庭の片隅につくった田んぼ
「デバンデス」が校庭の片隅につくった田んぼ

校庭の芝生
校庭の芝生

――最後に千歳台周辺の子育て環境の魅力について教えてください

薄井先生:すぐ近くに「蘆花恒春園」という歴史ある緑豊かな公園があり、散歩の時などにも四季折々の風景を楽しませてくれます。また千歳台は「りんご園と畑の公園のある街」ともいわれていて、世田谷区の名産である「りんご」を栽培するりんご園もあるんです。季節になると「りんご狩り・なし狩り」などもできるので、子育て中に近隣地域で自然に親しむことができるのはいいですね。
また周辺のマンションなどの建設を受け、「千歳船橋」駅や「千歳烏山」駅までのバスの本数が増えて、駅までのアクセスが非常に便利になったようです。通勤や通学の負担が少ないので、子育てをするのにもとてもよい環境ではないでしょうか。

世田谷区立千歳台小学校

校長 薄井康裕先生
所在地:東京都世田谷区千歳台4-24-1
電話番号:03-3482-0335
URL:http://www.setagaya.ed.jp/chii/

「元気・やる気・根気」を育てる/世田谷区立千歳台小学校
所在地:東京都世田谷区千歳台4-24-1 
電話番号:03-3482-0335
http://school.setagaya.ed.jp/chii/