宍戸佑三子さんインタビュー

農家さんや地域の方とのご縁を大切に。人々の身体に優しい料理を提供/食堂ヒトト(福島県)


平成28年(2016年)に、「福島」駅東口方面にある県庁通り沿い、ニューヤブウチビルの3階に移転オープンした『食堂ヒトト』。地元福島の野菜を使用した地産地消の身体に優しい定食を提供するこのお店では、ビルのオーナーを始め、ビルに入る他のお店の方々とも協力しながら、街に新たな活気を生み出そうと試みています。福島駅東口の駅前で大きな再開発が進められようとしている福島駅周辺エリアにおいて、これからどのような賑わいや活気が創出されていくのか、今後の変化にも注目が集まっています。今回はお店のスタッフの宍戸さんに、お店のこだわりや街の魅力についてお話をお聞きしました。

調理の様子
調理の様子

――まずは、お店のこれまでについてお聞きしたいと思います。もとは吉祥寺でお店をやられていたと、インターネット上の記事で拝見しました。移転の経緯について教えてください。

宍戸さん:当時の店舗のオーナーは、吉祥寺で10年ほどお店を営業していました。ところが、当時の建物が数年後に取り壊しになると言う話があり、本当は後々閉店するはずだったんですね。でも、平成24年(2012年)に福島市で開催された『FOR座REST大学』(幅広い世代を対象に、音楽・アート・文化に触れる機会を創出するイベント)というイベントに参加した当時のオーナーと、そのイベントの運営をしていた薮内さん(現在の『食堂ヒトト』が入るヤブウチビルのオーナーであり、ビルに入る眼鏡店『OPTICAL YABUUCHI』の代表)とが知り合ったのが始まりで、移転の話が持ち上がりました。いろいろ共感する視点があったのと、薮内さんも「空いている3階のテナントには食堂を入れたい」と以前から考えていたのもあったようで、2年ほどかけて誘致をして、吉祥寺のお店が閉店するタイミングで福島に移転したという話です。

お店のコンセプトは吉祥寺時代と変わらず、マクロビオティック”をベースに、その土地の風土に合わせた食材、伝統的な調味料を使ったお食事を提供していくというスタイルを大切にしています。移転後もそこは大切に、そのまま受け継いでいる部分です。
※マクロビオティック:穀物や野菜、海藻などを中心に、日本の伝統食をベースとした食事を摂ることにより、健康的な暮らしと自然との調和を実現していく考え方。

食堂ヒトト
食堂ヒトト

――福島に移転することになったのは、人と人との縁の部分が大きかったんですね。宍戸さんは吉祥寺時代からお店のスタッフをやられているのですか?

宍戸さん:私はお店が福島に移転してからオープン3~4カ月後にスタッフとして加わりました。実は平成27年(2015年)の『FOR座REST』のイベントにスタッフとして参加していて、その際、スタッフ用のケータリングを発注した先が移転前の『食堂ヒトト』だったんですね。そこで初めて存在を知って、お弁当を食べてみてさらに感動しました。福島に来るということを聞いた時に、ぜひ私も働きたいなと思ったのが始まりです。もともとコーヒー店で働いていたのもあって、食や、地域や身体にあった料理を提供するようなことは、やってみたいとずっと思っていました。

――なるほど、宍戸さんが働くことになったのもまさに人との縁と言えるわけですね。お店のコンセプトのお話もありましたが、おすすめのメニューは何になりますか?

宍戸さん:やはり食堂なので、定食ですね。ごはんとみそ汁の組み合わせが一番おすすめです。食べた方がホッとしたり、自分が整うような感覚になってくれたりしたらうれしいなと思って作っています。
米粉を使ったお菓子など、焼き菓子もたくさん焼いています。基本的にバターや卵、牛乳は使用していないので、消化にも良くて、たくさん食べても身体に負担にはならないようになっています。

おすすめは「定食」
おすすめは「定食」

――食材にもこだわっていらっしゃるんですね。

宍戸さん:はい。お野菜は近隣の農家さんにお店まで配達していただいたり、直接農家さんのところに足を運んで受け取ってきたり、という形をとっています。直接受け取りができないお野菜についても、福島県内のものが中心です。少しずつお店をやっていく中で農家さんが農家さんを紹介してくださったり、お店に来ていただいた農家さんとつながったりと、ご縁があるお野菜を使わせていただいています。
吉祥寺時代のメニューをベースにしつつ、仕入れた野菜を見ながらその季節に食べたいものは何だろうなと、考えながらメニューを作っています。お野菜そのものが本当に美味しいので、メニューを考える時には無理にあまりいろいろ付け加えないようにしています。素材の味を感じてもらえるよう気を付けて料理をして、興味がある方には農家さんや畑の様子なども伝えるようにしています。

――お客さんはどういった方が多いでしょうか?

宍戸さん:普段は7~8割が地元の方ですね。週末になると山形県や宮城県など、県外の方も多く足を運んでくださいます。たまに吉祥寺時代のお客さんが遊びに来てくださることもありますね。人数で言うと1人や2人でいらっしゃる方が多いですが、畳の敷いてある小上がりもあるので、会社の休憩中にグループで来てくださる方や家族連れの方もいらっしゃいます。ビルの3階にあるのですが、足の悪いご年配の方でも通ってくださる方がいてありがたい限りです。

主に福島県内の食材を使用
主に福島県内の食材を使用

――幅広い年代の方がいらっしゃるんですね!お店の入るビル全体の持つ個性も大きい気がします。冒頭で、同じヤブウチビルに入る『OPTICAL YABUUCHI』の薮内さんのお名前も挙がりましたが、それぞれのお店についても簡単にご紹介いただけますでしょうか。

宍戸さん:ビルの1階にある薮内さんの『OPTICAL YABUUCHI』はお洒落なお店で、『食堂ヒトト』で働き始める前は、入るのでさえ緊張してしまっていました(笑)。でも、実際入ってみると、薮内さんはとても気さくな方なのもあって話しやすいですし、眼もとても細かいところまで検眼してくださるんです。作ってもらう眼鏡によって見えるようになるのはもちろんなんですが、その人の将来の目の健康を見据えた提案をしてくださる、とても頼りになる眼鏡屋さんです。ビルのすぐ横に小さな小屋が建っているスペースがあって、そこでイベントもいろいろやられていますし、店内には雑貨スペースもあるので、眼鏡の必要がない人でも気軽に入りやすいと思います。

2階にはフラワーショップ『bloom』がありまして、こちらも数年前にこのビルに移転してきたお店です。お花に囲まれた素敵な空間のお店で、仕事で疲れた時には、食堂のある3階から2階に降りて、お花を眺めてリフレッシュすることもあります。

3階のレコード屋さん『LITTLE BIRD』の店長は、界隈では有名人でいらっしゃるようで、オーラが違います(笑)。県外からわざわざいらっしゃる方も結構いて、お店に来た人に3階の『食堂ヒトト』を紹介してくださることもあります。その逆で『食堂ヒトト』のお客さんで音楽好きがいれば、『LITTLE BIRD』さんを紹介することもあります。ビルの皆は仲が良いので、お互い協力しながら成り立っている感じがしますね。お互いのお店をのぞき合って冗談を言い合ったり、うちでご飯が余った時にはおすそわけしたりすることもあります。

ビル外観
ビル外観

――「ヤブウチビル」には個性豊かなテナントが揃っているんですね!ビルのすぐ横にある小屋の話も気になりました。そこでお店を出すこともあるのでしょうか?

宍戸さん:そうですね。小屋では、コーヒー店など、まだお店は持っていないけれどこれから将来的に持ちたいと思っている若い方がたまに出店されています。小さなイベントなども開催しているので、通りに活気が生まれる場、ここを拠点にして街の人々が交流する場になっているなと感じています。
『食堂ヒトト』も小屋で週末にお菓子を販売したり、夕方~夜にお酒とおつまみを提供したり、大々的に告知はせず誰でもフラッと立ち寄れるような小さなイベントをたまに開催しています。

――地域の交流の場としての機能もあるんですね。ちなみに、ヤブウチビルに限らず、周りの他のお店の方と連携して取り組んでいることはありますか?

宍戸さん:『食堂ヒトト』だけの取り組みではないのですが、この通りの商店街の人たちが協力しあって、昨年『夜見市(よみいち)』というのを始めました。飲食店などが通り沿いに屋台を出店したり、イベントをやったりしましたね。
このあたりは横のつながりが強い街だなとも思っています。旅行や観光でお店を訪れた方には、周辺のおすすめのお店を教えることもあり、街の案内所のような機能もあるかなと思います。
『食堂ヒトト』が面している県庁通りは、最近大きな『大原病院』が移転してきたこともあって人通りが徐々に増えてきています。それに伴って、この2~3年で美容室や服屋、立ち飲み屋さんなど新しいお店もだいぶ増えてきたなという印象です。なので、このあたりは今後の変化が楽しみな街だと思います。

食堂ヒトト
食堂ヒトト

――今後お店としてチャレンジしていきたいことはありますか?

宍戸さん:人と人とが近くなれたらいいねという話はよくみんなとしています。野菜を売ってくださる農家さんのことをもっと深く知っていきたいというのもありますし、地域の人たちとの距離というのもそうです。今年からビルの屋外に、薮内さんが大きなプランターを作ってくださったので、そこでトマトやハーブなど、ちょっとしたものを育ててみようということで、地域の人に見える形で育て始めています。生ごみのコンポストも始めました。

――今後の『食堂ヒトト』や街に起こる変化が楽しみになってきました!それでは、最後に福島の街のおすすめのスポットについて教えてください。

宍戸さん:福島市と言えば、『信夫山』(しのぶやま)がシンボルで、私はここがとても好きなので、福島を訪れた友達をよく連れて行きます。のぼって街を見渡してみると、周りが山に囲まれていること、自然が豊かなことが体感できます。文化施設も充実しています。信夫山に上ると、それが見渡せるのでおすすめです。

信夫山からの眺め
信夫山からの眺め

お蕎麦屋さんも多いですね。どこも美味しいです。『食堂ヒトト』の近くにある『大町おかめや』さんというお蕎麦屋さんもおすすめです。
また、震災後に始まった『フェスティバル福島』というイベントもありまして、そこの盆踊りは本当におすすめなので、ぜひ福島に来た際には見ていただきたいです。

まとめ

いかがでしたでしょうか。住みたい街としても人気を博す吉祥寺にあった人気店が福島市へ移転。そのキッカケは、お店の名前にも関連する、地元福島との繋がりを感じる、人と人との交流にありました。地産地消の食材にこだわったマクロビオティックなメニューは、健康志向の方にも、地元の味を堪能したい観光で訪れる人にも評判。吉祥寺時代に訪れたことがある方も、これから福島市への転居や移住、観光をお考えの方の、“福島グルメ”のひとつになれば幸いです。

食堂ヒトト

宍戸佑三子さん
所在地 :福島県福島市大町9-21 ニューヤブウチビル3F
URL:http://hitoto.co/
※この情報は2020(令和2)年6月時点のものです。

農家さんや地域の方とのご縁を大切に。人々の身体に優しい料理を提供/食堂ヒトト(福島県)
所在地:福島県福島市大町9‐21 ニューヤブウチビル3F
電話番号:024-573-0245
営業時間:11:30~17:00
定休日:火曜日
http://hitoto.co/