院長 松原為人先生インタビュー

2019年11月に開院、なくてはならない病院をめざす/京都民医連中央病院(京都府)


太秦映画村などで有名な京都市右京区で、いのちの平等の思想の基、民主医療を提供してきた民医連(全日本民主医療機関連合会)。中京区にあった『京都民医連中央病院』が、令和元年(2019年)11月に右京区太秦に移転し、全41科の診療科目を持つ新病棟に生まれ変わりました。明るく柔らかな印象のデザインが目を引く外観と、広大な敷地には柵や壁がなく、広い公園やウォーキングコースを設けるなど、近隣の住民がくつろげるスペースとしての活用もできる地域に溶け込んだ設計になっていることが特徴です。“なくてはならない病院をめざす”というビジョンのなかで、これから目指す病院の在り方などを、松原為人院長先生に伺いました。

――まずは病院の沿革や理念、医療方針について教えてください。

松原院長:民医連は命の平等を掲げ、無差別・平等の医療と福祉の実現をめざす組織として発足して、営利を目的としない民主的な運営を目指した全国的な組織です。当院の基になる「右京病院」ができたのが、昭和36年(1961年)で、「京都民医連中央病院」となったのが、昭和62年(1987年)です。センター機能化することで、医療機能を上げることと、医療人の育成のために一定規模を持った急性期医療ができる病院が必要だといった目的で開設されました。

近年は、建物の老朽化や昔基準の狭いスペースの問題がありましたので、現代の基準にリニューアルしようということで、今回の移転新築となりました。

松原院長:理念については、今回のリニューアルで掲げたビジョンである「すべての人々にとってなくてはならない病院を目指す」を中心に、新しく構築していこうということで、春頃までを目途に論議に入ったところです。これまで掲げていた理念を現状の課題に沿ったものにして、患者さん、職員にとっても分かりやすいものに変えていこうという趣旨で新たな理念構築を行おうということがその経緯になります。

新しい地域病院の礎として

――途中経過的なところでも構わなければ、理念の部分で具体的なところを伺うことはできますか?

松原院長:「すべての人々にとってなくてはならない病院を目指す」のビジョンで、3つミッションをあげています。ひとつ目が「標準的治療・低侵襲的治療(※1)を心がけ、総合的な医療の質の向上に努めます」というもので、実際に提供する医療に対して、どのようにコミットしていくかということです。2つ目が「地域のヘルスプロモーションを推進する役割を担います」で、街づくりを含めて現代の病院では医療を提供するだけでなく健康増進の啓蒙の役割も担っているという考えのもとです。3つ目になるのが「双方を支える人づくりに取り組みます」で、医療の専門技術も当然必要ですが、医療に取り組む全人的な力量を持った医療従事者の育成をしていくべきだということで、昨年から「京都大学」との共同研究の形で進めています。

(※1)低侵襲性治療:大きく開く治療とは逆で小さな切り口で治療を行う。カテーテル治療などが例

――特に力を入れている(専門としている)科はありますでしょうか?

松原院長:特に力を入れている部分でいえば、ひとつは消化器の分野です。技術的に高い医師がいますし、内視鏡検診や内視鏡治療の強みを打ち出すと同時に、癌が中心となりますが、消化器内科、消化器外科、腫瘍内科と3つの科で、スムーズな連携を行いワンチームでの医療を行う強みがあります。

もうひとつは透析の分野です。当院は古くから京都内では有数の透析病院でした。今回の移転を機に53床から65床へ、12床拡張しました。以前の施設では非常に狭いスペースで透析を行っていたのですが、ゆったりとした広いスペースで透析を受けていただけるようになりました。新しくなった病院では「腎センター」として、透析治療に加えて慢性腎疾患の治療や悪化防止、予防も含めてワンストップで行う施設として打ち出しています。

脊椎の低侵襲性治療も強みのひとつとして挙げられます。また術後のさまざまな合併症が起きやすい前立腺がんを克服する新たな治療法の開発を京都府立医大泌尿器科との共同で行っていますが、これにも力を入れていきたいと考えています。各科のつながりが非常に良く、総合力を駆使して標準的な医療に高い質で取り組める病院ということを前面に打ち出せるようにしています。

みんなが寄り添う大きな緑の木のように

――太秦に移転された経緯と、移転の際に大変だったこと、気を付けたことなどがありますでしょうか?

松原院長:広い病院を作るという課題がありましたので、京都市内でこれだけの土地を取得できる場所は奇跡的でした。京都市内で旧病院からそれほど離れない場所ということでなんとか現在の場所が取得できました。新しい病院が完成した後の患者さんの移送は、問題が起こることなく無事に完了しました。

気を付けたことに関しては、設計思想に関して地域に親しまれる公園の中のような病院ということをイメージしていましたが、これは相当高いレベルで実現できたと感じています。西側は完全に開放して公園化していますし、周囲もほとんど塀がありませんので、地域の人が自由に敷地内で集えるような周囲に溶け込んだ設計になっています。

――新病院の設備の特徴について教えてください。

松原院長:外来診療を行う建物の1階部分は、正面玄関から入って左右のどちらの廊下からでもグルっと一周まわってくると必ず元の位置に戻ってくるサークル状のレイアウトになっています。大きな病院でありがちな廊下が枝葉のように分かれて迷路のように迷う、ということがありません。建物内のデザインは自然採光を豊富に取り入れたおかげで明るく、また、これまでの病院にはない大胆でカラフルなデザインになっているので、非常にやわらかい雰囲気の病院になっていると思います。

1階より上は3つの病棟がくっつくような構造になっていますが、病棟も廊下がクロスする部分のひとつのコーナーを仕切り壁やカウンターのないオープンなナースステーションにしました。入院患者さんのご家族の方でも気軽にナースに声を掛けられるということで好評です。またそのナースステーションとの対角の位置に食事もできるようなデイスペースを設けています。年配の入院患者さんが一緒に集まって食事や談笑をされるなど非常に暖かさがあってよかったかなと思っています。

リハビリスペースと透析には十分に広いスペースを割り当てられたのと、各階の構成を回復期から急性期とそれに合わせた診療施設というふうにレイアウトを工夫しているので、職員導線も高効率であるところがよいところだと感じています。まだ寒い季節ですが、日曜日には病院の公園やベンチで家族でくつろいでいる方の姿をチラホラと見受けますので、春が楽しみだなと思っています。

地域医療のリーダーシップを目指して

――移転を機に力を入れていこうと考えていることや、新しく取り組もうと考えていることはありますでしょうか?

松原院長:これまでになかった分野は耳鼻咽喉科ですが、これができたことと口腔外科も人員が拡張されましたので、今後は外来というよりも地域の手術診療を担っていくべきだと考えています。またこの二つの分野は嚥下機能とも深く関わっていますので、高齢者の方が増えるなかで、お年寄りの嚥下機能をいかに立て直すかということが、在院日数の短縮や、後の生活の質にもつながっていくので、そこに力を入れていきたいと思っています。また、これからの地域の病院の取り組みとして、日本医師会の提唱する2人主治医制(※2)をすすめてかかりつけ医の先生方との連携を深めて

リニューアル後、施設的にも大きく変わったのが産婦人科です。全て広い個室でシャワー・トイレ付きとアメニティを改善しました。また、令和3年(2021年)を目途に京都市で初めてとなる「赤ちゃんに優しい病院」(※3)の認証取得をしようと考えています。病院を上げて科学的に捉えながら進めていくと同時に、母乳育児に関しては京都の最先端を走る病院を目指そうという意識で取り組んでいきます。

(※2)二人主治医制:病院の医師と地域のかかりつけ医が互いに連携しながら共同で継続的に治療を行うこと
(※3)赤ちゃんに優しい病院:「Baby Friendly Hospital(BFH)。WHO・ユニセフの「母乳育児成功のための10カ条」を満たした施設

――地域医療を担う病院として、周辺地域とどのように連携を図られていますでしょうか?

松原院長:今回の移転で行政区も変わりましたし、医師会も変わりました。その中で新たに地域の人々と医療をどう接点をつなげていくかということが課題になってくると思います。目指したいと思っているのは病気でない人でも気軽に来られる病院です。例えば健康増進活動や1階に設けている『ちいき総合サポートセンター』で患者様やご家族が抱える不安や悩みについての無料相談など、いろいろな面で利用しやすい病院として、簡潔にいえば街づくりの課題を果たせる病院です。住みやすい街に当病院がどう役に立てるかという視点で考えています。

この周辺は街づくりがかなり旺盛に行われているエリアなので、当病院が主導で引っ張っていくというよりも、地域の街作りのなかにどう取り込まれていくかということを考えながらやっていこうと思っています。

――周辺地域にお住まいの方、また住むことを検討されている方に向けて、メッセージをいただけますでしょうか

松原院長:この周辺は閑静な住宅街で、住みやすさを高めるための街づくりの取り組みに非常に積極的で取り組んでおられるところが素晴らしいなと思っています。そういう街づくりの取り組みにおいては京都の市街地においてのモデル地区ではないかと思っています。学校も豊富で教育面もしっかりしているので、そういう環境のなかの安心や安全のひとつの砦として当病院を使っていただけたらと思います。

まとめ

いかがでしたでしょうか。歴史と伝統に裏付けられた、洗練した街、京都市右京区。施設の西側を公園として開放していたりと、地域住民にとってもなじみの良い頼もしい病院として認識されているのではないでしょうか。これから京都市右京区への移住や、転居を考える際の参考にしていただければ幸いです。

京都民医連中央病院

松原為人院長
所在地:京都府京都市右京区太秦土本町2-1
電話番号:075-861-2220
URL:https://kyoto-min-iren-c-hp.jp/
※この情報は2019(令和元)年12月時点のものです。

2019年11月に開院、なくてはならない病院をめざす/京都民医連中央病院(京都府)
所在地:京都府京都市右京区太秦土本町2-1 
電話番号:075-861-2220
受付時間:8:30~11:30、13:00~16:00、16:30~19:00 ※曜日、時間帯よっては外来をしていない科目あり
https://kyoto-min-iren-c-hp.jp/