上田の文化として、地域内外から愛される/上田映劇(長野県)
長野県上田市にある、100年以上の歴史を誇る、老舗の劇場「上田映劇」。2011(平成23)年3月に一度、定期上映を終えたものの、現役の映画館として残したいという思いが集まり同館は再び動き出しました。今回お話を伺ったのは、自身も同館で映画を楽しみ、さまざまな移り変わりを「上田映劇」と共にしてきた支配人・長岡俊平さん。
演劇場として開館し、時代に合わせて変化し続けた
――まずは「上田映劇」の概要からお聞かせください。
長岡さん:当館は1917(大正6)年に、演劇場として開館しました。当時は歌舞伎の興行などを行っていましたが、昭和初期に映画館へと改装しました。それと同時に「上田映画劇場(上田映劇)」に改称しています。戦中・戦後の動乱を経て映画館として歩んできた当館ですが、ビデオやDVDが一般家庭に普及したこともあり、観客数は年々減少していきましたね。
自主上映会に利用してもらったり、イベントを開催するなどして映画館の存続を図ってきたのですが、2011(平成23)年3月に定期上映を終了することとなってしまいました。 広い舞台があったため、演劇や音楽ライブに利用されていたのですが、私も含め、「上田映劇」で映画が観られなくなったことを残念に思う人は多かったです。そして、開館100周年を迎える2017(平成29)年に定期上映を再開させようという機運が高まり、上田市民の有志が集まって「上田映劇再起動準備委員会」が発足しました。
同年4月15日には6年ぶりに定期上映がはじまり、270席の1スクリーンのコミュニティシネマとして再始動しました。現在は映画館としてだけでなく、上田出身の落語家・立川談慶さんによる寄席などもあり、映画以外にも広く開かれた映画館となっています。
――開館当時と変わっていないこと、反対に変わったことはありますか?
長岡さん:まず、変わっていないことについてですが、躯体部分と天井は当時のままです。建物正面には“あさくさ雷門ホール”の大看板が掲げられていますが、これは劇団ひとりさんが監督を務めた「青天の霹靂」のロケで使用されたときのもので、記念としてそのままにしてあります。
私の代で起きたことではありませんが、演劇場だった建物が紆余曲折を経て映画館になったということが一番の変化かもしれませんね。また、平成に入ってからは音楽ライブに対応した機材も導入しています。演劇場から映画館になったときのように、時代に合わせていくという姿勢は、当館の特徴なのかもしれません。
――「上田映劇」だけでなく、街にも変化があったかと思います。
長岡さん:定期上映が終了した年は、私が高校を卒業した年でもありました。私は進学で上京したのですが、「上田映劇」で映画が観られなくなったことは、少なからず故郷を去ろうという決心の後押しになったと思います。 当館の運営に携わらないかと声を掛けてもらってこの街に戻ってきた私ですが、活発に活動している人が多いということに新鮮な驚きがありました。
既存の建物を有効利用して新しい試みをする人や、上田で文化を発信していこうとする人たちが街にいい変化を与えているように思います。 最近の傾向としては、当館に来てくれる高校生が増えてきました。ボランティアで手伝えることはありませんかと、声を掛けてきてくれたときは本当に嬉しかったですね。
お客様はシニア世代が多い当館だけに、次世代に関心を持ってもらい、「上田映劇」のファンを増やしていくことは今後の維持・発展には不可欠です。大きな映画館にはない当館ならではの味わいや楽しみ方をより広く発信していきたいですね。
上田の街と「上田映劇」のこれから
――1世紀を超える歴史のなかで、多くの苦労もあったかと思います。
長岡さん:私が「上田映劇」に来る前から、さらに言うと私が生まれる前から、きっと多くの方が苦労をされたことでしょう。私が支配人を務めるようになってからの話をすれば、建物の老朽化とどのように向き合っていくかが悩みですね。
長野県は台風被害の少ない県ですが、一昨年の大型台風では屋根瓦が飛んでしまうなど想定外の被害がありました。また当館は、どちらかというと社会派と言われるような作品を扱うことが多く、全国的に映画館離れが進んでいることも踏まえると、いかに関心を持ってもらえるかが重要なテーマと言えます。
――今後の展開や、計画していることはありますか?
長岡さん:同じ土俵でシネマコンプレックスと対峙しても勝負になりません。当館独自の路線として、“映画館に公共性をもたせる”方向性で進んでいこうと考えています。当館を運営母体する「NPO法人上田映劇」を含む3法人による活動として、不登校の子どもたちに映画を観てもらうといった取り組みです。今後の展開としては、子育てや介護で映画館に行けない方のために、力になれることを積極的にしていきたいですね。
―― “映画の街”と称される上田ですが、文化に触れる機会が多い街といった印象です。
長岡さん:確かにその側面はあると思います。100年前の上田は養蚕が盛んで、その売買に関連して県内外から多くの人がやってきたそうです。街は賑わい、映画館が建てられ、時代がくだった1960(昭和35)年頃には、市内だけで映画館が7館もあったと聞いています。フィルムコミッションの活躍などもあり、上田は映画・ドラマのロケ地の街として認知されるようになりました。
また、街の中心部にある劇場とゲストハウスを兼ね備えた文化施設「犀の角(さいのつの)」は様々な表現活動の発信地になっていますし、「本屋未満」というブックカフェも当館の近くにあります。新旧の入り交じる文化が楽しめる街だと思います。
――上田市中央エリアの住環境はいかがでしょうか。
長岡さん:東京で就職しようと考えていた私ですが、上田に戻り、社会人として住みはじめたこの街は、それまで気づかなかった魅力がたくさんありました。歴史ということでは「上田城」が有名ですが、街を歩けばそれ以外の歴史も楽しめます。そうした環境に加え、徒歩圏内にはスーパーマーケット、書店、「上田」駅があり、さらには治安もいい。ファミリー層に限らず、シニア層を含む全ての方にとって住みやすい街だと思います。
上田映劇
支配人 長岡さん
所在地 :長野県上田市中央2-12-30
電話番号:0268-22-0269
URL:http://www.uedaeigeki.com/access/
※この情報は2021(令和3)年2月時点のものです。
上田の文化として、地域内外から愛される/上田映劇(長野県)
所在地:長野県上田市中央2-12-30
電話番号:0268-22-0269
休館日:月曜日
http://www.uedaeigeki.com/