校長 髙橋博美先生インタビュー

ICTを活用し、協働的な学びと個別最適な学びの構築に取り組む/戸田市立戸田第一小学校(埼玉県)


2021(令和3)年に、明治10(1877)年の開校から145年目を迎えた「戸田市立戸田第一小学校」。「戸田市役所」や「戸田市文化会館」などがある、戸田市の中心部に位置する学校で、約1,000人もの児童が通う市内でも規模の大きい学校のひとつです。コミュニティ・スクールとして運営されている戸田市の小中学校は地域とのつながりも深く、一人一台端末を活用した学びの場は学校から地域へと徐々に広がりを見せているようです。 2019(令和元)年度から校長を務める髙橋博美先生に、同校の特色ある取り組みや、地域との繋がりについてお話を伺いました。

2021(令和3)年度で開校145周年を迎える
2021(令和3)年度で開校145周年を迎える

開校145周年を迎えた伝統校

――まず学校の概要について教えてください。

髙橋校長先生:「戸田市立戸田第一小学校」は明治10(1877)年5月の開校より、今年145周年を迎える歴史と伝統のある学校です。児童数は令和3(2021)年7月現在955名で、各学年4〜5学級、特別支援学級を合わせて32学級あります。 私が着任した3年前と比べると人数は50名ほど減ってはいますが、戸田市の推計によると今後も周辺のマンション等の建設により1,000名前後の学校規模で推移するだろうと言われています。

お話を伺った高橋博美校長先生
お話を伺った高橋博美校長先生

本校では現在、校舎の建て替えに関わる工事が進んでおり、去年の秋から仮設校舎の建設工事が始まっています。2024(令和6)年12月には新校舎が完成する予定です。新しい校舎は体育館と校舎が一体になった4階建で、屋上にプールを設置するので現在よりも校庭が広くなる予定です。中学校並みの200mトラックをとれる広さなので、今よりも幅広い教育活動ができると思います。

現校舎。建設中の新校舎は2024(令和6)年12月に完成予定。
現校舎。建設中の新校舎は2024(令和6)年12月に完成予定。

また、校舎内の設備や設計で特徴的なのは、現行で64㎡の教室を72㎡の広さにしました。タブレットも使うようになったので大きめの机を入れる予定です。また各教室には黒板ではなくホワイトボードとプロジェクターを設置してICTに対応した環境を整える予定です。他にも、図書室を大きくしたり、体育館の2階部分には卓球スペースができるような屋内運動スペースを作ったりして、1,000人近くの子どもたちが学びやすい環境を作ってもらう予定です。

「気づく、創る、助け合う」を教育目標に掲げた取り組み

――学校の教育目標についてお聞かせください。

髙橋校長先生:本校の教育目標は「気づく、創る、助け合う」です。簡単に説明すると「気づく」というのは自分の頭で考えましょうということ。「創る」は新しいものを創り出して社会と関わりましょう。そして「助け合う」は多様性のもとでいろんな人と協力してやり抜く力を育てていきましょうといったメッセージが込められています。

また私が着任してからは、「あ・な・たを大事にしてください」といったことも子どもたちに向けてよく伝えています。「あいさつ・なかよく・たのしく」の頭文字で、「笑顔で自分からあいさつしよう」「なかよく自分も相手も大切にできるようになろう」そして、「たのしく物事に取り組もう」と。また、今まさにコロナ禍で大変な状況ですが、「こんなときだからこそ前向きに」と、言い続けています。

校章・校訓と共に掲げられた教育目標
校章・校訓と共に掲げられた教育目標

「他者と協力してやり抜く力」と「自分の頭で考える力」を育む

髙橋校長先生:次に本校の学校経営方針とグランドデザインについてご紹介します。本校HPの「教育方針」からもご覧いただけますが、学校経営方針は「笑顔・信頼・誇りのある学校〜気づく、創る、助け合う〜」としています。まず、児童にとって通いたくなる学校づくりというのはもちろん、保護者や地域の方からも信頼される学校づくりを目指しています。また、教職員にとって働きがいのある学校づくりといった点も重視しています。

目指す学校像としては、中央教育審議会(日本の文部科学省におかれている審議会)の答申にもある通り「令和の日本型学校教育」を進めます。私のこだわりとしては、「協働的な学び」を先にしているところで、「協働的な学びと個別最適な学びの構築」を掲げています。目指すところはもちろん一緒ですが、みんなで一緒にワイワイと取り組む部分と、一人で個々にモクモクと取り組む部分とを組み合わせながら、「他者と協力してやり抜く力」と「自分の頭で考える力」をいろんな場面で育てて行きましょう、と教師にも子どもたちにもメッセージとして発信しています。 また戸田市の小中学校は2018(平成30)年度からコミュニティ・スクールとして運営されているので、今お話しした内容は学校運営協議会はもちろん、PTAの理事会などでも共有されています。

タブレット端末を利用して協力しながら学ぶ子どもたち
タブレット端末を利用して協力しながら学ぶ子どもたち

プログラミングや英語教育を取り入れた戸田市独自の「PEERカリキュラム」

髙橋校長先生:戸田市の教育は先進的な取り組みをしていることで知られていますが、「PEERカリキュラム」も本市独自のカリキュラムとして実践されています。産官学民との連携によりプログラミング教育(P:Programming)、経済教育(E:Economic Education)、英語教育(E:English)、リーディング・スキル(R:Reading Skills)の育成を目指したものです。

平成30(2018)年度にプログラミング教育の研究校として指定された
平成30(2018)年度にプログラミング教育の研究校として指定された

プログラミング教育に関しては、「戸田市プログラミング・ICT教育研究推進委員会」という組織がありまして、5年ほど前から取り組んでいます。総合的な学習の時間等に年間で5時間、小1から中3まで独自のカリキュラムとテキストを使って実践しています。本校でも平成30(2018)年度にプログラミング教育の研究校として指定を受け翌年に発表しました。経済教育についてはふたつの流れがあって、本校では「セサミストリートカリキュラム」を導入しています。総合的な学習の時間等を使って各学年年間で3、4時間取り組みます。また英語教育に関しては戸田市が特区として認定されたこともあり、10年以上前からALTを各校に常駐させて英語を学んでいます。リーディング・スキルに関しては、6年生以上の子どもたちがリーディング・スキルテストを受け、読解力の状況を把握したり、リーディング・スキルを身に付けさせるための授業の在り方を研究したりしています。

2021(令和3)年度から3年生以上に一人一台端末を貸し出し

――日々の教育活動において特色ある取り組みについてお聞かせください。

髙橋校長先生:まず学力向上という点では、「GIGAスクール構想(文部科学省が提唱する「児童生徒向けの1人1台端末と、高速大容量の通信ネットワークを一体的に整備し、多様な子どもたちを誰一人取り残すことのなく、公正に個別最適化された創造性を育む教育を、全国の学校現場で持続的に実現させる構想」のこと。)」の実現に向け、本校でも一人一台タブレットを活用した授業を行なっています。去年まではひと学年に40台ずつで学年によっては5クラスあるので使いたいのに使えないといった状況もあったのですが、今年度から3年生以上は一人一台の端末を授業で活用できるようになりました。

タブレットを用いた授業の様子
タブレットを用いた授業の様子

――タブレットを活用した授業の実際についてお聞かせください。

髙橋校長先生:まず、課題配信というかたちでタブレットを使って教職員から子どもたちに課題を送ったり、授業支援クラウド「ロイロノート・スクール」を利用してみんなの考えを共有したり、タブレットで課題を提出するといった一連の流れは、既に1年生から6年生まで実践できている状態です。

今、力を入れて取り組みたいのは、家庭での学習についてです。コロナ禍で学校が休校になった期間に考えさせられたのですが、子どもたちは宿題がないと自発的にはなかなか勉強できないんですね。これからの教育を考えるうえでも、やらされる勉強はやめたいね、と。学ぶのが面白いとか調べるのが面白い、自分が成長できてうれしいという意欲を育てていかないと、なんとなく毎日学校に行って勉強はしているけどでは、子どもたちのものにならないだろうと思いました。そこで戸田市では課題を明確にした学びにより、授業で終わることなく家庭学習にも持続していくという学習、追究し続ける学びを研究しています。

タブレットを使いこなし、アンケートを作成する様子
タブレットを使いこなし、アンケートを作成する様子

また、意欲を高めるためにAIを活用したドリルを導入し一人ひとりのペースやレベルに合った学習ができるような環境を整えています。今年の夏休みもタブレットを各自自宅に持ち帰ってもらい、タブレットで課題を出せるように考えています。また本校は2021(令和3)年度、国語の児童用デジタル教科書に関する先行研究を行う研究校として委嘱されており、子どもたちはタブレットで教科書の叙述を切り取り、自分の考えを記述してノートがわりに使ったり、音読や漢字練習の練習をしたりして個別最適な学びへとつながっています。

他にもタブレットを活用した授業で特徴があるのは、5年生の社会科の授業で沖縄の小学校と遠隔授業を行ないました。タブレットを使っておたがいの学校の周辺環境を紹介するのですが、子どもたちは沖縄の自然の豊かさに「おーっ!」と歓声を上げていました。

話し合いをする子どもたちの様子
話し合いをする子どもたちの様子

英語教育もそうですがICTに関しても戸田市はいち早く導入を進めていたので、これまで研究を積み重ねてきた教職員にとっては本当に有り難いことでしたし、一人一台端末の導入に際して良いスタートをきれたと思います。 今後の課題としては、一人一台端末を活用して協働的な学びと個別最適な学びを45分間の授業の中でどう組み合わせるか。また「PBL」を意識した授業をどう進めていくか、生活科と総合の時間を中心に研究を進めています。

1 2