「子どもは地域で育てる」という想いと「人は人の中で育つ」という教育/豊中市立桜井谷小学校(大阪府)
大阪モノレール「柴原阪大前」駅から徒歩10分、田園風景が残る、落ち着いた住宅エリア内に建つ「桜井谷小学校」。1874(明治7)年3月創立という長い歴史があり、2023(令和5)年で150周年を迎える。今回は、2014年(平成26)年度から同校に着任された北之防純子校長先生に、学校の特色や周辺地域との関わりについてお話を伺った。
地域の方々に支えられ、この地で歴史を刻んできた桜井谷小学校
――歴史のある同校に赴任されたときは、どんな思いがありましたか。
北之防校長先生:こちらに校長として着任する前に、11年間教育委員会におりました。この学校の居心地が良く、着任してもう8年になります。出身は豊中で、生まれも育ちも豊中です。引継ぎでも、伝統があり、地域の方が協力的で、結びつきが強いということを聞いておりましたが、まさにそのような小学校で、私自身、自然体で続けてきました。
――学校や周辺地域の雰囲気を教えてください。
北之防校長先生:小学校の周辺に「市立豊中病院」や「大阪大学」、高等学校・中学校・小学校・幼稚園の一貫教育の「箕面自由学園」、ほかにも幼稚園や保育園が点在しており、教育環境が充実している地域です。通学に関しては「安心・安全」を大切にしている地域で、車両の速度抑制のためのハンプ(道路上に設けた凸部)を設置したり、グリーンベルトを作ったりと通学路の整備に力を入れてきました。わんちゃんのお散歩がてら、校区の安全を見守っていただくというボランティア「わんわんパトロール隊」も発足しています。校内はもちろんですが、校区の「安心・安全」を考えることによって、子どもたちだけでなく、周辺に住んでいる方々の安全も守ることができていると感じています。
――「地域こども教室」など、地域のイベントが充実しているそうですね。
北之防校長先生:おじいちゃん、おばあちゃんと同居されているお家も多く、桜井谷小学校の卒業生という方が周辺にたくさんお住まいになっています。公民分館や社会福祉協議会、子ども会、消防団、自治会などの活動も活発に行われており、地域ごとに、夏祭りや盆踊りなども開催されています。また、土曜日の子どもたちの居場所づくりとして始まった「地域こども教室」もとても盛んです。たけのこ掘りや大阪大学散策、赤坂下池の「ツバメの塒(ねぐら)入り」を見に行くなど、年間50ほどの行事を企画してくださっています。地域ぐるみで子育てをしているという意識が強いエリアですね。
――地域のクラブ活動も熱心に取り組まれているそうですね。
北之防校長先生:桜井谷地区には、野球、サッカー、ミニ・バスケット、少林寺拳法、チアリーディング、マーチングバンドなど、社会教育もさかんです。子どもたちが目標に向かってがんばっています。マーチングバンドは、市内でも3校しかなく、創立して3年目です。お隣の桜井谷東小学校区とはつながりも深く、サッカーやチアリーディングの子どもたちは、一緒に練習しています。
外国から来た児童が教室にいることが当たり前という環境
――現在の「桜井谷小学校」について、児童数、学級数などを教えていただけますか。
北之防校長先生:今年度は、児童数607名、学級数20で最大でも1クラス33名ですので、40名ギリギリというようなクラスはありません。豊中市の方針で4年生まで35人学級となっているので、1人の先生でも丁寧に子どもたちを見ることができています。
――教育目標や、その実現のための特色ある取り組みなどあればお聞かせください。
北之防校長先生:「確かな学力の基、自主的精神に満ちた心豊かな人間性の育成」という学校教育目標を掲げています。本校は、海外のお子さんも多いので「国際社会の中で生き抜ける子ども」という子どもの姿も目指しています。モンゴル、スーダン、ロシア、中国、バングラディッシュ、ベトナムが国籍のお子さんもいます。大阪大学の研究生の方が家族を連れて日本にいらっしゃるケースが多いので、日本語がまったく話せない子どもたちのために、日本語指導の先生もいるんですよ。
――子どもたちは、小学校の中で自然と多文化を学べる環境ですね。
北之防校長先生:そうですね。校区に大阪大学があり、留学生さんのお子さんが編入してこられることが多いです。いろいろな国の人が教室にいることが当たり前になっています。クラスに外国籍のお子さんがいるとまわりの子どもたちはうれしそうです。2学期のはじめに転入生があり、「京都からの転校生だよ。」とお話していても、「ハロ~」とお迎えに来てくれる子がいて、微笑んでしまいました。子どもたちの柔軟な対応力には、いつも感心させられます。
中国から来たお子さんが日本語をまったく分からない状態だったので、心配で見に行くと、「漢字」で何とかやりとりしていました。子どもってすごいですよね。他校では、これほどいろいろな国の子どもたちとふれ合うことはできないのではないかと思います。
――すべての子どもたちに、幅広い学びの環境を提供されているのですね。
北之防校長先生:外国から来た児童を対象に毎週水曜日の2時から豊中市教育委員会が主催している「国際教室」を開催しています。日本語の読み書きなど学校での学習のサポートと言葉が通じない環境でがんばっている子どもたち同士の交流の場となっています。また、「市立豊中病院」4階の小児病棟に、桜井谷小学校の病弱学級として「院内学級」があります。院内学級での指導が難しい場合は、ベッドサイド学習を行っています。「通級指導教室(大きな木)」では、吃音など言語の課題がある子どもたちへの指導や対人関係や行動面、学習面が気になる子どもたちへの指導を行っています。豊中市内でも通級教室は増えていて、桜井谷小学校の子どもたちだけでなく、ほかの学校の子どもたちも通級教室に来ています。
都市部の学校でありながら「農のある学校」など、特色ある教育内容
――学校で力を入れている活動があれば教えてください。
北之防校長先生:地域の方のご協力で作っていただいた田んぼがグランドにあり、子どもたちは、田起こし、田植え、雑草とり、稲刈り、脱穀などを通して稲を育てることの苦労や命の大切さを体験します。この取り組みは2007(平成19)年から始まっており、地域のボランティアの方が学校に来て、米作りについて指導してくださっています。
子どもたちも「5年生になったら米作りができる」と楽しみにしているようです。お米は最大で21キロ収穫できたことがある一方、スズメの被害がひどかった年は3.5キロしかとれませんでした。他にも畑ではきゅうりやトマト、ピーマンなどの夏野菜も育てていますし、4年生は校舎の下でゴーヤの「緑のカーテン」を育てています。
――小学校にゆるキャラがいると聞きましたが本当ですか。
北之防校長先生:PTAの広報委員会が呼びかけて、応募のあったアイデアの中から選ばれた「ゆるキャラ」がいます。ゆるキャラ「さくらくん」の着ぐるみが、入学式や終業式に登場するんですよ。
――今後、新たに検討されている取り組みなどはありますか。
北之防校長先生:2年後に150周年を迎えるので、そこに向けて子どもたちと一緒に何かしたいと思っています。日本中あちこちにいる卒業生や、世界中にいる桜井谷にゆかりのある人々が、一緒に150周年をお祝いできたらよいなぁと思い、クラウドファンディング等もPTAの方々と一緒に考えています。中庭に、子どもたちの発表に使える舞台を作ったり、広場を整備して野外活動ができるようにしたり、子どもたちのためにやりたいことはたくさんあります。
タブレット学習が進んでも、人は人の中で育っていくという考えを大事に
――タブレット学習の導入状況について教えてください。
北之防校長先生:豊中市が「一人一台タブレット」を進めています。「個別最適化された学び」「学びを止めない」という趣旨では、とても意味があるのですが、「協働的な学び」「みんなで一緒に学習する」という部分も大切だということを実感しています。タブレットに向かって一人で学習しているだけでは、調べることはできても、コミュニケーションや人と人とのつながりなどを経験することはできません。ネットから得る情報がすべて正しいわけではないですし、リテラシーやマナーを教えていくことも重要だと考えています。
タブレットにはタブレットドリルが入っています。丸つけもしてくれて担任の先生には、どの子がどれだけ進んでいるか、平均学習時間や平均点などもわかります。すごいですよね。ところが、人の意見を聞いて「そんな考え方があるんだ」と感じるには、話し合ったり、伝え合ったりする必要があります。社会に出たら、自分がどう考えているのかを伝える場面があると思うので、子どもたちには両面の力をつけていってほしいと考えています。
「人のために」「社会のために」と思える、人とつながることのできる子どもに
――これからの教育では何が求められるとお考えですか。
北之防校長先生: 文部科学省のいう「予測困難な時代において生涯学び続け、主体的に考える力を育成する」という考えはとても大事なことだと思います。コロナ禍の中で、一気にICTを活用した教育、GIGAスクール構想が進みました。一人一台タブレットがあることで、学びを止めないことが可能であると思います。学校に通うことができない時期があったことで、「学校」という存在について改めて考えた保護者の方も多いと思います。だからこそ、私たちは、「学校」で何ができるかを考え、「学校」でしかできないことをやっていく必要があると思っています。人は人の中で育っていくと思うので、人と人とのつながりを大事にすること、「人のために」「社会のために」という気持ちを育んでいきたいと考えます。
――校長先生が子どもたちと関わる上で大事にされていること、「こんな子どもに育ってほしい」といった思いをお聞かせください。
北之防校長先生:人とつながることのできる子どもになってほしいと思っています。自分だけではなく、人に関心を持って、つながっていってほしいですね。桜井谷は海外の方も多いので、世界情勢を正しく理解し、自分と違うことを悪と思ったり、受け入れなかったりするのではなく、「ちがい」を豊かさにしていってほしいと願っています。この地域やふるさと、生まれ育った場所、子どもの頃に出会った人や物を愛する子どもでいてほしいですね。
学校周辺の桜は本当にきれいで校内でもソメイヨシノ、枝垂桜、卒業記念に植樹した八重桜などが咲くので4月にもぜひいらしてください。
豊中市立桜井谷小学校
北之防 純子 校長先生
所在地: 大阪府豊中市柴原町3-11-1
電話番号: 06-6841-0025
URL:http://www.toyonaka-osa.ed.jp/cms/sakuraid/index.cfm/1,html
※この情報は2021(令和3)年8月時点のものです。
「子どもは地域で育てる」という想いと「人は人の中で育つ」という教育/豊中市立桜井谷小学校(大阪府)
所在地:大阪府豊中市柴原町3-11-1
電話番号:06-6841-0025
http://www.toyonaka-osa.ed.jp/cms/sakura..