地域とともに歩む伝統校/川崎市立御幸小学校 校長 鈴木和裕先生
明治天皇が梅見に訪れたことを記念して名づけられた「川崎市立御幸小学校」は、来年145周年を迎える歴史のある学校。地域の人々と保護者からなる図書ボランティアや活発なPTAなど、学校の教育活動に協力的な地域性が、子どもたちの健やかな成長をしっかりと支えている。そんな「御幸小学校」の鈴木校長先生に、学校の歴史や日頃の学校の様子などについてお伺いした。
明治天皇行幸の光栄が校名になった誇りある学校
――学校の沿革や概要について教えてください。
鈴木校長:本校は1873年(明治6)年4月20日に開校した、今年で144年目を迎える歴史ある学校です。この辺り一帯は17世紀中頃に梅が植えられはじめ、1880年(明治13)年3月19日に明治天皇が観梅のために行幸されました。この光栄を記念として、南河原をはじめとした10ヵ村が合併され「御幸村(みゆきむら)」と名づけられたそうです。1924(大正13)年に御幸村は川崎町・大師町とも合併して川崎市になり、36年間存続した「御幸」という名前は消えてしまいました。本校の「御幸」という名前は唯一残された明治天皇行幸の名残であり、地域の方々の誇らしい気持ちの表れであると考えています。
現在は全校生徒850名の子どもたちが毎日元気に登校してきています。多摩川沿いなどの開発に伴い、生徒数も右肩上がりに増えており、3年後には全校で1,000名を超える見通しです。
――9年前に新築された校舎はモダンなデザインですね。
鈴木校長:2009(平成21)年に河原町小学校が吸収合併された翌年に、この新校舎が建設されました。なかなかモダンな外観で、当時は神奈川建築コンクール優秀賞をいただきました。教室はオープンスクール形式で、各教室は壁で区切られていないので開放的で明るい雰囲気になっています。
また今年度、全校生徒1,000名を見据えての増築工事も完了しました。万全の準備が整った状態で来年4月に新しい1年生を迎えることができるので、ひと安心しているところです。
――教育目標について教えてください。
鈴木校長:本校の教育目標は「やさしく・かしこく・たくましく」で、頭文字を取って「御幸のやかた(館)」と、子どもたちも親しみを込めて呼んでいます。具体的には、
- 「人の話を聞く態度」の発達段階に応じた指導
- 国語科を中心とした校内研究の充実を図る
- 各家庭と連携し「早寝・早起き・朝ごはん、朝うんち」の習慣定着を図る
- 「できる、できる、絶対できる」(ペップトーク)という前向きな指導を通して自尊感情を育てる
- フェアプレイの精神である、「全力で取り組む」「ルールを守る」「友だちを大切にする」ということを日常的な心構えとして指導する
- 児童支援コーディネーターを中心とし、子どもを細やかに見取り支援し、保護者の方々と連携をして子どもを育成する
という主に6つのことに取り組んでいます。
また子どもたちが自主的に考えた「力を合わせて夢の一歩をふみだそう! ひかりかがやく御幸の子」というスローガンは、運動会などの行事のテーマに掲げています。
――今年度、力を入れて取り組んでいる教育や学習内容はありますか?
鈴木校長:この2年間は国語の校内研究をしており、各学年2クラスずつが研究授業や講師を迎えての講座をとおして「自分の思いを伝え合いながら、心を通わせる御幸の子」というテーマで、子どもたちの国語力の育成を図っています。
――この地区ならではの伝統芸の授業もあるとお聞きました。
鈴木校長:この幸区には享保年間に始まった小向獅子舞と呼ばれる一人立の獅子舞があり、神奈川県の無形民俗文化財にも指定されています。小向にある八幡大神の例祭に合わせて披露されるもので、体を左右に動かしながら中腰で手を振るように回して、飛び跳ねて舞う特徴ある獅子舞です。本校では3年生の総合的な学習で、この獅子舞について歴史や成り立ちを調べて自分たちが住んでいる街の伝統芸能について造詣を深め、実際に練習をして自分たちで舞ってみるところまで授業で行っています。
通級指導教室や児童支援コーディネーターなど特徴が光る御幸小学校
――児童支援コーディネーターというのは、どのような役割があるのでしょうか?
鈴木校長:児童支援コーディネーターとは、従来の「特別支援教育」に「児童指導」や「教育相談」の機能を加えて、全ての児童を対象とした校内の児童支援活動を担当する専任の教職員のことです。現在川崎市内の113校中79校に配置されています。
朝の挨拶運動に加わって児童の登校の様子を見守ったり、各クラスの学習や生活の様子を見回って、子どもたちとコミュニケ―ションを図りながら、悩んでいる子や問題を抱える子がいないかを確認しています。子どもはもちろん、保護者も対象にした相談も受け付けており、さまざまな問題が大きくなる前に解決できるようにサポートしています。
文部科学省が発表する「いじめの認知件数」は右肩上がりに増えていますが、これはいじめが増えているというよりも、児童支援コーディネーターなどのいじめを察知する教職員の人数が増え、網の目が細かくなっていることを表しています。
本校でも日常の小さな出来事も見逃さずに、何か問題があればすぐに職員や親御さんとも連携を取るようにしています。児童支援コーディネーターは必要があれば区のソーシャルワーカーや派遣カウンセラー、医療機関とも連携が取れるので、学校としても心強い存在です。
自主的・積極的に動いてくれるボランティアやPTAに支えられて
――文部科学大臣賞を受賞された図書ボランティアには地域の方々も積極的に参加されているそうですね。
鈴木校長:保護者や卒業生の保護者、地域の方々が一緒になって図書ボランティアの活動をしてくださっているのですが、毎日学校に足を運んでくださり、読み聞かせや紙芝居、図書室の環境整備などを一生懸命やってくださっています。図書室は、パソコン室が隣接していて非常に使いやすい造りになっているのですが、その環境に磨きをかけるように図書ボランティアさんたちの働きが、図書室の使いやすさ・親しみやすさにつながっているようです。
地域の方々も、図書ボランティアなどを通じて学校内にどんどん入ってきてくださり、保護者たちはもとより、子どもたちとも日常的に関わりを持ってくださるので、本当に有難い存在です。
――PTA活動も全国優良PTAとして表彰されるほど盛んだとお伺いしました。
鈴木校長:運動会などの行事のサポートをはじめ、校外や広報などのさまざまな委員会に分かれて活動し、子どもたちの教育活動や日常生活に大いに貢献してくれています。地域によってはPTA役員のなり手がなくて困るという話も聞きますが、本校ではそういうことはまったくないので助かっています。
例えば今年は校舎を増築した関係で運動場が広く使えず、運動会でのお弁当は子どもは教室で、保護者は一度帰宅してもらう形を取りました。初めての試みでしたので、さぞかし保護者の方々からは不満の声が出るだろうと想像していましたが、PTAの方々の事前告知や説明の仕方がよかったのでしょう。特に大きな問題もなく、皆さんじつに協力的に受け入れてくださって、助かりました。日頃の連携と信頼関係が大切なのだと痛感した出来事です。
――子どもたちや保護者の方々はどんな雰囲気なのでしょうか?
鈴木校長:まず子どもたちは自己肯定感が高く、堂々とした子どもが多いですね。先日、児童が人前で発表するような機会があって聞いていましたが、声も張りがあって堂々としていて、ほかの先生に「校長先生、負けましたね」と言われました(笑)。それを聞いて、じつに頼もしいというか嬉しい気持ちになりましたね。
また保護者の方々も本当に学校の教育活動に協力的で、関心もお持ちです。先日もフェスティバルと呼ばれる学習発表会に多くの方が足を運んでくださって、子どもたちもやり甲斐を感じて張りきって発表していました。
――この地域の魅力について教えてください。
鈴木校長:沿革にもあるように「小向の梅」は地名の由来ともなっていて、御幸小学校の校章にもデザインされているくらい、この地域の名物です。近年は梅の本数が少なくなってきたということで、幸区の区役所が旗を振って「梅の木を増やそう」という運動も始まっているようです。御幸公園に梅林を増やそうと植樹をしたり、学校などにも「梅の木を植樹しませんか?」と積極的に声がけしてくださいます。こういう点でも地域の特性を残そう、大切にしようという気持ち・地域愛が強い地域だなと感じますね。
また近くの「日蓮宗妙光寺」には、18世紀に川崎宿の財政を立て直し、復興と繁栄をもたらす礎を築いて幕臣となった田中休愚(きゅうぐ)の墓があり、本校敷地にも記念の石碑があります。この地区のヒーローなんですね。
このように御幸小学校の学区域は由緒ある歴史と、現在の川崎の特長が見られる貴重な地域です。
川崎市立御幸小学校
校長 鈴木和裕先生
所在地 :川崎市幸区遠藤町1
TEL :044-511-4317
URL:http://www.keins.city.kawasaki.jp/2/ke202401/
※この情報は2017(平成29)年1月時点のものです。
地域とともに歩む伝統校/川崎市立御幸小学校 校長 鈴木和裕先生
所在地:神奈川県川崎市幸区遠藤町1
電話番号:044-511-4317
http://www.keins.city.kawasaki.jp/2/ke20..