福祉部高齢者いきいき課 辻さんインタビュー

ICTの活用により、持続・発展する高齢者支援の仕組みづくりに取り組む/八王子市役所(東京都)


年間を通して多くの登山客が訪れる「高尾山」をはじめ市内中心部を流れる「浅川」など、豊かな自然環境に恵まれた八王子市。「新宿」駅まで電車で約40分と都心へのアクセスも良く、都会と田舎そのどちらの魅力もあわせ持ったまちとして世代を問わず人気を集めている。 今回は八王子市福祉部高齢者いきいき課を訪ね、高齢者支援の取り組みの実情や八王子市の暮らしやすさについてお話を伺った。

八王子市福祉部高齢者いきいき課 辻さん
八王子市福祉部高齢者いきいき課 辻さん

これまでの考え方を大きく変える必要があった八王子市の高齢者支援

――八王子市の高齢者支援の現状について教えてください。

辻さん:高齢者支援とひとことで言っても施設の整備に関することや介護人材の確保・定着・育成など多岐にわたり、高齢者が住み慣れた地域で安心して暮らし続けるためのさまざまな取り組みがハード、ソフト両面で行われています。

本日は2021(令和3)年度から2023(令和5)年度までの3年間に行う予定の取り組みをまとめた「高齢者計画・第8期介護保険事業計画」をもとに介護予防の観点からお話させていただきます。まず事業計画の策定にあたって八王子市の高齢者支援がどういった考え方のもとで進められているかをまとめた資料(https://www.city.hachioji.tokyo.jp/kurashi/welfare/ab005/ad96478/ad824973/p021222_d/fil/R3-3-6.pdf) がありますので参考までにご覧ください。

出典:八王子市の介護予防事業
出典:八王子市の介護予防事業

8期計画における考え方として特に強調したいのは、これまでの高齢者支援の考え方を大きく変える必要があるという点です。まず私たちが高齢者に対して抱いている思い込みのようなものがあると感じていまして、例えば歳をとればみんなだんだん弱っていく。そして体が弱ったら要支援、要介護になって元の暮らしには戻れない。できないことがあれば誰かが代わりにやってあげるのが当然。そのような考え方があるように思います。

しかし八王子市では、早い段階で専門家による適切な支援があれば一度健康な状態では無くなったとしても元の暮らしを取り戻せると考えています。それをリエイブルメント(再自立)と言います。

出典:八王子市の介護予防事業
出典:八王子市の介護予防事業

上記のように年齢とともに健康な状態がだんだん失われて要支援、要介護の状態になって行くのが一般的ですが、八王子市では元の暮らしを取り戻せる時期を早期に見極めて、適切な支援を短期集中で行い再自立を促します。

これを、「ハッピーチャレンジプログラム」略して「ハチプロ」と呼んでいますが、リハビリの専門職と1対1で90日間(3か月)の短期集中プログラムに取り組んでいただき、自宅でできるような健康体操や健康に役立つ習慣を身につけていきます。

「ハッピーチャレンジプログラム」チラシ
「ハッピーチャレンジプログラム」チラシ

この取り組みで最も重要なのは自立できる時期を見逃さないという点です。八王子市には地域ごとに「高齢者あんしん相談センター(地域包括支援センター)」があり、相談に来た方を適切な支援につなげるため、リハビリの専門職によるアセスメント訪問も行っています。また75歳以上の後期高齢者で介護認定を受けていない方に対しては、健康に関するアンケートを実施し、リスクに応じて講座の案内や高齢者あんしん相談センター職員による訪問を行なっています。

これまでの高齢者支援のように誰かにしてもらう支援だけではなく、ご自身の力で健康を維持しながら元の暮らしや自分らしい生活ができるように支援して行くことが私たち行政の役割としても重要ではないかと考えています。

一人ひとりが自分で自分の健康を守るセルフマネジメントという考え方の重要性

「八王子市役所」
「八王子市役所」

――高齢者支援の考え方が大きく転換した背景にはどのような理由があったのでしょうか?

辻さん:1つ目の理由としましては、コロナ禍で外出や人が集まることが難しくなり、一緒に活動することができなくなったため、一人ひとりが自分で自分の健康を守るセルフマネジメントという考え方が重要になったということです。

さらに健康体操や講座を開いてもどれだけ健康になったかを測定できていなかったので、これからますます高齢化が進み財政的にも厳しくなっていく中で、行政としてはきちんと費用対効果を示せる事業にしていくべきという責任を感じている点も挙げられます。

現在八王子市には高齢者が約15万人おり、介護予防の主役は高齢者一人ひとりです。自立と持続を支援して行くのが私たち行政の使命だと考え、高齢者支援の転換を図っているところです。

2021年度よりスマートフォンのアプリを活用した介護予防の実証実験をスタート

出典:八王子市の介護予防事業
出典:八王子市の介護予防事業

――スマートフォンを活用した「てくポ」という新しい取り組みをスタートさせたようですが?

辻さん:「てくポ」はスマートフォンのアプリを使って介護予防に取り組む新しい試みで、今年度からスタートしました。てくてく歩いたり、バランス良く食べたり、ボランティアをしたり、脳や体に良いことをするとポイントが貯まる仕組みになっており、貯まったポイントは市内のお店で使用可能です。

ICTを活用した背景としては、15万人という対象者に対して限られた人員と財源で支援に取り組む難しさというのがあり、これまでのように人数に応じて予算をかけ続けるような事業では持続も発展もしないと感じていたからです。

そこで15万人という規模をスケールメリットとして生かせるような仕組みを構築できないかと、関東経済産業局主催の「ガバメントピッチ」に参加させていただき、課題解決に向けて提案をいただいた中から、株式会社べスプラさんとともに仕組みづくりのための共同研究を行うことになりました。

ベスプラさんは脳と体の健康維持アプリ「脳にいいアプリ」というサービスを提供しており、「てくポ」ではこれを少し発展させてボランティアなどの社会参加の活動でもポイントをもらえる仕組みにしました。

出典:八王子市の介護予防事業
出典:八王子市の介護予防事業

今後3年くらいの間に広告収入などでポイントの原資を賄う仕組みを作り、行政がお金をかけ続けなくても良い仕組みにしようというのがこの事業の狙いです。今年度は先着500名のモニターを募集して実験的にスタートしたところで、10月には説明会も行いました。現在はオペレーションで不都合な点などを洗い出しているところで、来年度から規模を拡大させていく予定です。

「てくポ」を利用したい高齢者の方や、ポイント利用店として協力いただける店舗の方、またスポンサーとして協力いただける企業の方にもぜひ取り組みを知っていただければと思いますので、詳しくはHP(https://www.city.hachioji.tokyo.jp/kurashi/welfare/001/p029443.html#tameru)をご覧いただければと思います。

自分の興味やライフスタイルにあった活動に出会えるシニアクラブ、サロン

サークルやシニアクラブが盛ん
サークルやシニアクラブが盛ん

――高齢者の社会参加の場として運営されているシニアクラブや高齢者サロンについてもご紹介ください。

辻さん:まず「シニアクラブ」というのはおおむね60歳以上の方が町会や自治会といった生活圏の中で自主的に活動する組織のことを言います。2021(令和3)年6月現在、180のクラブがあり、地域貢献や健康づくり、生きがいづくりなどの活動に取り組んでいます。

次に「高齢者サロン」は、レクリエーションや趣味の活動などを通じて、高齢者の方が気軽に集まれる交流の場や仲間づくりの場として運営されています。活動内容は地域や運営主体によってさまざまで、少人数で和気藹々とやっているところもあれば、テーマを持って広く活動しているところもあります。興味のある活動や自分のライフスタイルにあった活動があれば参加してみてはいかがでしょうか。

さまざまなボランティア活動も行っている
さまざまなボランティア活動も行っている

また八王子市では高齢者のボランティア活動も盛んで、「シニア元気塾」として講座を設け、これからボランティアなどの地域活動をはじめてみたいという方に向けた取り組みも進めています。市内在住で60歳以上の方を対象に「ボランティア入門講座」と「コーディネーター養成講座」の2種類の講座を開設しており、どちらも無料で参加いただけます。

将来的には、このような講座を受講した方にも「てくポ」のポイントを付与する仕組みを作ろうと考えておりますので、社会参加の活動のきっかけにしていただければと思っています。

充実した社会参加の場に加え、近所を散歩するだけでも楽しめるのが八王子の魅力

「はちおうじ人生100年サポートブック」
「はちおうじ人生100年サポートブック」

――今後、注力していきたい活動や新たな取り組みがあれば教えてください。

辻さん:私たち高齢者いきいき課で制作している「はちおうじ人生100年サポートブック」がありまして、充実した社会参加・生涯学習のメニューが紹介されています。一般の方を対象にした生涯学習講座も充実していますので、新しいことを学びたいという方には魅力的かなと思います。

「みんなのおしごと応援ハンドブック」
「みんなのおしごと応援ハンドブック」

仕事に限らずボランティアなどの活動を“マッチング”するというのがこれからのキーになってくるとも考えており、働くことに関する情報をまとめたハンドブック「みんなのおしごと応援ハンドブック(https://www.city.hachioji.tokyo.jp/kurashi/welfare/004/004/002/p029646.html)」も制作しています。

ほかにも八王子市にはさまざまな活動の場がありますので、何からはじめようか迷っている方がいれば、お近くの「高齢者あんしん相談センター」までお問い合わせください。生活支援コーディネーターが、ご希望に合わせていろんな活動を紹介できるかなと思います。

新しい人生の楽しみ方や味わい方を感じていただけるまち

自然が身近に感じられる
自然が身近に感じられる

――八王子市の魅力についてお聞かせください。また、これから八王子市に移り住む方へメッセージをお願い致します。

辻さん:私が考える八王子市の魅力は、賑やかすぎないところと、少し足を延ばせば山や川などの自然が身近に感じられるところです。都会的な雰囲気の中であくせく生きなくて良い、のんびりした雰囲気が好きです。

あとは美味しいものが多いところです。市内で新鮮な農産物が作られていることもそうですし、中心市街地にはチェーン店だけではなく個性的で魅力のあるお店もあります。

「八王子まつり」ⒸHachioji City (licensed underCC BY 4.0)
「八王子まつり」ⒸHachioji City (licensed underCC BY 4.0)

また最近はコロナ禍でなかなかできていないですが、毎年8月に開催される「八王子まつり」をはじめいろいろなイベントがあるところです。人と触れ合う、新しい趣味を発見するなどもできるのではないかと思います。

以前、八王子市に移り住んだ方で、市民農園を借りて新たに土と近い暮らしを楽しまれているという話を伺ったことがあります。八王子市にあるいろいろな資源を使いながら、これまで知らなかった新しい人生の楽しみ方や、味わい方を感じていただけるのではないかと思います。

田舎に行って何かを諦めなきゃいけないような暮らしとも違いますし、都会ではできないような八王子らしい暮らしがここにはあると思いますので、ぜひ一度八王子に来てみてください。

八王子市福祉部高齢者いきいき課 辻さん
八王子市福祉部高齢者いきいき課 辻さん

八王子市役所

福祉部高齢者いきいき課 辻さん
所在地 :東京都八王子市元本郷町三丁目24番1号
電話番号:042-626-3111
URL:https://www.city.hachioji.tokyo.jp/citypromotion/
※この情報は2021(令和3)年12月時点のものです。

ICTの活用により、持続・発展する高齢者支援の仕組みづくりに取り組む/八王子市役所(東京都)
所在地:東京都八王子市元本郷町3-24-1 
電話番号:042-626-3111
開庁時間:8:30~17:00
閉庁日:土・日曜日、祝日、年末年始(12/29~1/3)
https://www.city.hachioji.tokyo.jp/