地域と共に歩む創業150年のかまぼこ店/鈴廣かまぼこ(神奈川県)
新鮮な魚と良質な水から作られる小田原の名物「かまぼこ」。その発祥は江戸時代とも室町時代とも言われるが、現在に至るまで人々に愛され、人気のお土産としても定着している。そんな小田原を代表するかまぼこ店「株式会社鈴廣蒲鉾本店」の副社長であり、小田原箱根商工会議所の会頭も務める鈴木悌介氏に、早くから環境や地域活動に取り組んできた同社の思いや小田原の魅力、今後の街づくりへの期待などを伺った。
企業に求められているのは本業を通しての社会貢献
――まずは「鈴廣」の150年の歴史からお教えください
鈴木さん:1865(慶応元)年の創業で、2015(平成27)年に150周年を迎えました。元々はもっと海に近い場所にあったのですが、1962(昭和37)年、私の両親の時代にここ風祭に移転してきました。それまでは「かまぼこを作って市場に出荷する」のみでしたが、この時から小売店を持ってお客様と直接接するようになり、東京の百貨店さんに出店して、今で言うブランディングもスタートしました。我々はこれを創業、戦後の復興に次ぐ第三創業と呼んでいます。
150年という年月が長いか短いかはわかりませんが、当社が今まで続いているのは、150年前も今も鈴廣のかまぼこを食べたいと思い、実際にお金を払って買ってくださるお客様がいらっしゃるからこそ。何らかの形でお客様や世の中の役に立っているからこそ、存在が許されているということを忘れずに、今後も商売を続けていきたいと思っています。
――社是の「老舗にあって老舗にあらず」には、どのような思いが込められているのでしょうか?
鈴木さん:「老舗」というのは外から評価していただく言葉で、自分で言う言葉ではありませんが、この社是は外にアピールするものではなく、働く我々が自分たちの立ち位置を絶えず確認するために掲げています。世の中は変わっていくけれど、変えてはいけないものはしっかり守り、変えるべきものは勇気を持って変えていく。それを両方100%でやろう、という思いが込められています。
お客様があってはじめて仕事ができるのだという意識、お客様と正面向いて仕事をしていく姿勢は、時代がどう変わろうが絶対変えてはいけないものです。一方、150年前と今では環境も原料も技術もお客様の嗜好も違いますから、仕事の仕方は常に変えていかなければいけません。
――環境や社会はどう変わってきていると思いますか?
鈴木さん:今は「儲かったから文化活動をしたり、地域の活動に寄付しよう」ではなく、企業の存在、本業のあり方そのものに社会的責任が問われてくる時代です。当社でも、今いちど自分たちがやってきたことを見直して「これでお客様と社会のお役に立てる」というポイントを把握し、そこを徹底的に磨いて、またお客様に伝えていくことが大切だと考えています。
例えば当社では、魚のたんぱく質を研究する専門員4人が毎日研究を積み重ねています。同時にかまぼこ作りの技術を証明する国家資格「水産練り製品製造技能士1級」を持つ職人が16人、都道府県資格の2級が20数人と、魚のことを熟知し一からかまぼこが作れる職人を育てています。職人の技と最先端の技術の積み重ねがかまぼこの味を作っています。そんな商品の価値をお客様にどう伝えていくか、またもっとおいしいかまぼこをどう作っていくかが今の課題です。
―― 鈴廣さんは、昔から環境活動や地域活動に取り組まれていますね
鈴木さん:かまぼこはある意味、海からの魚と森からの板という森里川のつながりの象徴のような商品ですし、原料は全部天然資源ですので、森や海が死んでしまえば作れなくなってしまいます。だから水源地の森林保全プロジェクトを行ったり、魚のアラと地ビールの搾りかすから作った肥料を地元の農家さんに使ってもらい、できた野菜を当社のレストランで出したりはしていますが、地球環境全体から見れば小さいことです。ただ、活動を知った方に「自分も何かしないとな」と思ってもらえればうれしいなとは思います。
食べるとは自分以外の命をいただくこと。それを商売にしている我々は、食べ物の命をお客様の命に移し変えるお手伝いをしているのだと思っています。新鮮な魚と水、海の塩、職人の技だけで、添加物など余計な物は使わずに、命をできる限りゆがめたりせずお届けし、召し上がったお客様に元気になってもらう。そうやって本業で世の中の役に立つのが、当社の社会貢献だと思うんです。
――エネルギーの地域での自給、持続可能な地域経済作りにも力を入れていると聞きました。
鈴木さん:「なぜかまぼこ屋がエネルギー問題をやるんだ?」とよく聞かれますが、万が一小田原で災害があったとして、我々がよその地でかまぼこ屋を続けられるかといえば、それは無理です。その意識と、命をつなぐ仕事であることが、自然と「地域でエネルギーを自給する安全な仕組み作りをめざす」という所につながっていきました。
小田原ならではの魅力は歴史・文化にあり
――城下町・宿場町として発展してきた小田原の魅力は、どんな所にあると感じておられますか?
鈴木さん:若い頃アメリカで10年ほど仕事をした後、帰国後に小田原箱根商工会議所の青年部に入れてもらいました。まずそこで思ったのは「この国の本当の魅力や価値は地域にある」ということです。土地それぞれの歴史と独特の文化、気候、風土があり、個性豊かな人たちがいて、個性豊かな食文化がある。もちろん小田原も例外ではなく、そこが一番の魅力だと思います。
――住民目線で見ると小田原はどんな街でしょうか?
鈴木さん:「田舎でもなく都会でもない」所ですね。田舎でもないとは、仕事・生活する上でまったく不便はないし、新幹線に乗れば都心まで30分、羽田空港へも約1時間。都会でもないというのは、隣に誰が住んでいるのかわからない都市とは違い、時にはうっとうしいこともあるかもしれないけれど顔の見える関係があるという意味です。生活コストも安いですし、気分転換したければ山に海、温泉、ゴルフ場もあるので、住むにも仕事をするにもとてもいい場所だと思います。
現在、商工会議所では創業支援プロジェクトを進めていて、既に30社ほどのレストランやベーカリー、ゲストハウスなどがオープンしました。小田原には新しい会社も老舗もあり、どちらの経営者とも気楽に話せるので、創業意欲のある人たちにはそんなところも魅力かなと思っています。
――今後、小田原の街にはどうなってほしいと、またどうしていきたいとお考えですか?
鈴木さん:小田原という街は、まだポテンシャルを活かせてないな、まだまだやれることはたくさんあるなというのが正直なところです。2016(平成28)年に大涌谷が小噴火して箱根の観光客が半減した際、小田原にも大きな影響がありました。小田原箱根商工会議所で作戦会議をしながら対策を考えたのですが、その時、今後の課題として出たのが「小田原ならでは」を磨いて発信していくこと。じゃあ、「小田原ならではとは?」と考えていくと、やはりお城だね、となったんです。
「小田原城」は戦国時代の幕開けと最後を飾った城であり、その威容は小田原攻めに集まった諸大名を驚かせ、徳川家康は小田原城下を見て江戸城の構想をしたと言われています。私が代表を務める街づくり会社でも、これから歴史・文化をテーマにしたいろいろなプロジェクトを動かしていく予定です。行政ともうまくタイアップしていけるとうれしいですね。
株式会社鈴廣蒲鉾本店
副社長 鈴木悌介さん
https://www.kamaboko.com/
※この情報は2018(平成30)年11月時点のものです。
地域と共に歩む創業150年のかまぼこ店/鈴廣かまぼこ(神奈川県)
所在地:神奈川県小田原市風祭245
電話番号:0465-22-3191
営業時間:9:00~18:00
https://www.kamaboko.com/