地元の、地元による、地元のための学校。 「総合型スポーツクラブ」が目指すコミュニティとは/特定非営利法人 高津総合型スポーツクラブSELF 平口和宏さん
地元の、地元による、地元のための学校。
「総合型スポーツクラブ」が目指すコミュニティとは
「かながわサイエンスパーク」近くにある「川崎市立高津中学校」は、住民の手で中学校の環境が維持され、さらに、敷地の中に自主的に運営管理をする「高津総合型スポーツクラブSELF」という、市民のためのスポーツクラブが置かれている、珍しい中学校である。
中学校の校門はいつでも開放され、住民が気軽に門をくぐって、運動を楽しんでいく。昼間は中学生のための場所なので、クラブが活況となる時間は18時以降。19以降には大人も多く参加して、21時まで思い思いに汗を流していく。
現在の会員数は1,200名。3歳から90歳近くまで、非常に幅広い年代から支持されている「総合型スポーツクラブ」とはどんなものか、理事長の平口和宏さんにお話をお聞きした。
「総合型スポーツクラブ」とは聞き慣れない言葉ですが、どんなものでしょうか。また、「SELF」という名前に込められた思いとは?
SELFというのは、「Spotrs」「Enjoy」「Life」「Friendly」の頭文字で、スポーツをしながらエンジョイし、豊かな生活を送って、素晴らしい仲間を、という感じですね。そして「SELF」、自分達で作っていくということです。誰でも気軽に、年齢問わずに一緒にできるコミュニティの場として立ち上げたもので、もともと、文部科学省の、「スポーツ基本法」で定められた「総合型スポーツクラブ」というものに準じています。
学校は部活が終わってからの間には、誰も使っていなですよね。だからその時間を地域の方に使ってもらおうというわけです。そうすれば、施設自体が市民の財産ですから、費用もあまりかからないんです。いま、この形のクラブというのは全国に広がっていて、全国で3,700くらいあるそうです。神奈川県のネットワークだけでも、70団体くらいはあります。
「SELF」平口さんが中心になって立ち上げられたそうですが、立ち上げまでの経緯、込められた思いについてお聞かせください。
もともと、私は「体育指導員」という地域のボランティアをずっとやっていたのですが、ある時、川崎市の教育委員会から「学校の施設を使って、地域の人たちにスポーツや文化を楽しんでもらえるようなものを作っていきたいので、協力してくれないか」という話がきたんです。私はここに60年住んでいて、高津中学校は私の子どももお世話になっているので、何か役に立てればと思って受けたんですね。
今って、子供たちの遊び場が無いじゃないですか。自分が育ったころは田んぼや畑があって、そこで遊んだんですけど、今はそういった場所はあまり残っていませんよね。だから話を聞いてまず、「子どもたちに遊び場を作ってあげよう」っていう考えが浮かびましたね。自分もスポーツが好きだったので、スポーツでこういう活動をできることが、生きがいに感じられてきましてね。
「総合型スポーツクラブ」という新たな試みに、最初は苦労されたのではないでしょうか。
最初は沢山の人が集まって会議をしてたんですけど、全然話が進まなかったんです。だから一旦その会議は解散して、新たに組織し直して始めたんです。そしたらどんどん物事が決まっていって。
最初の2年間は行政から補助金がありましたから、講師への謝金とかも用意できました。施設にしても、たとえ公共の建物でも、暖房費とか電気代はかりますから、あくまでも「受益者負担」を原則にしています。
3年目からは補助金が無くなるので、ビジネスにすることを考えました。いわゆる「コミュニティビジネス」ってやつですね。それで、NPO法人になりまして、行政と契約を結ぶ方向性を考えました。
法人化したことで行政との契約が取れるようになりまして、私たちは川崎市との間に、「学校管理」の契約を取ったんです。これは全国でも珍しいんですよ。地域が学校の管理をするという形なんです。朝の8時半から夜の9時半まで、地域の人たちが用務員さんをやっている感じです。なぜ地域管理がいいかっていうと、人件費が安く、何人もいて、しかも近所に住んでいるから、緊急時にはすぐ駆けつけられるんです。
「SELF」に参加できるのは、学区内の住民だけなのでしょうか?
原則としてそううたっていますが、誰でも自由です。会員さんがお友達を連れてくれる方が多いですね。考えてみれば、それって評価してくださっているということなんですよね。自分がいいと思ったから、友達にも紹介してくれるんですから。
今は、会員が子どもだけで600人、中学生、高校生、一般も含めたら1,200人いますし、今まで一度でも登録してくださった方は、4,500人にもなります。4,500人の方が、少なくとも1回はうちの内容を感じて、賛同して、会費を払ってくださったんですよね。嬉しいことです。だから地域のニーズに応えているんだな、という実感はあります。
利用時間について教えていただけますか
基本的に、9割は夜の活動です。ここの特長としては、何時に来て、何時に帰っても良いんです。ですから残業があっても、大丈夫なんです。子どもの時間は18時からになっています。部活はだいたい18時までに終わるので、その後に始まるというイメージですね。
人気のプログラムには、どのようなものがあるのでしょうか。
子どもたちにいちばん人気があるのは「走り方教室」ですね。少しでも足が早くなることを目的とした教室ですこれはもう大人気のプログラムでして、運動会の時期に合わせてプログラムを組んでいるんですが、土曜日には120人くらい来るんです。ラダーを使って瞬発力を鍛えたり、本格的な陸上競技の基本練習からしますし、講師も、会員のトライアスロンの選手の方や、体育教師を目指す学生さんなんかが見てくれているんですよ。
その他にもいろんなプログラムがありまして、サッカー、バレー、バドミントン、フラッグフットボール、卓球、硬式野球、ウォーキング、フラダンス、ヨガ、ピラティス、太極拳、合気道、チャンバラなど、激しいものからソフトなものまで、曜日によって内容が決まっています。文科系のプログラムもありまして、茶道、健康麻雀、書道、英会話なんてものありますよ。
普通のスポーツクラブですと、受けられる種目も決まっていますし、費用がけっこうかかりますけど、ここの場合は全部できて会費が月に1,000円ですから。中学生以下は500円です。なぜそんなことができるかっていうと、学校の施設を使っていて、講師は会員さんの中から出しているからなんですよね。うちの最大の特徴は、「先生も会費を払っている」ということかもしれないですね。講師も一緒の仲間なんです。
プログラムは年代別に組まれているのでしょうか?
おかげさまで、今では年少の方から、90歳になるような方まで来てくださっていて、世代を越えて、「みんなで作り上げるクラブ」って意識をもって楽しんでいます。ですから、サッカーのような激しい運動以外は、特に年齢別にはしていません。
たとえば卓球教室などでも、普通だと、子どもとお年寄りで一緒にやるってことは避けるじゃないですか。でも「SELF」では、子供向け、大人向けって組分けをしようとすると、それを大人が嫌がるんですよ。お年寄りの方なんか「子どもと一緒にやるのが生きがいだ」って言うんです。だから「お孫さんと一緒にやっているのかな?」と思って聞いてみたら、実は近所の子どもと、近所のおばさんだったりするんです。そのぐらい違和感がなく、みんな仲良しなんです。全然縁もなくてここで知り合った人が、一緒にスポーツを楽しんでいるんです。
学校外に出かけるプログラムも増えているそうですね。
今はアウトドアとか、外に出て行くプログラムが増えていっています。例えば南房総に行って田んぼに田植えをしたり、稲刈りをしたりもしていますが、これは農村の人たちと連携を組んで、子供たちに「食の大切さ」を感じてもらうように行っているものです。自らの体験を通して、食の大切さ、ひいては身体を動かすこと、健康の大切さを感じてもらいたいと思っています。
今の子どもたちってすごいですよ。本当にいろんなことを知ってます。ただ、体力が少し落ちているっていうのはありますから、こういうクラブで、脳を鍛える前に身体を鍛えてほしいと思っています。身体を動かせば、自然に心が安定するんです。いろんなものが発散されてバランスが良くなるんです。だから子ども達には、たくさん身体を動かしてもらって、身体も精神も健全に育ってほしいですね。
地域と「SELF」との関わりについてお教えください。
地域のお祭りにはよく参加させてもらっています。そもそも、会員さんがお祭りの中心人物になっていることが多いので、たとえば小さな神社のお祭りで人を集めたいときに、「SELFさんで何か出し物やってくれない?」ってお願いされるんです。フラダンスのチームなんかは人気があるんですが、そうすれば家族も親戚も友達もみんな集まってきて、すごくにぎわうんですよ。今では、フラダンスチームはいろんなイベントに呼ばれるようになっています。
あと、「SELF」の大きな事業として施設管理の仕事があるんですが、これは「高津中学校」だけではないんです。近くのほかの小中学校や運動施設なども管理していまして、「地域の人による、地域のための経営」ということで頑張っています。体育館の窓口に行ったら、近所の誰かが受付をやっていたり、という感じなんですね。私どもに変わってから、いろんな企画を生み出したり、ニーズに応えたりしてきましたので、利用者もぐっと増えたんです。これも、地域の力だと思っています。
活動内容はどのように決めていらっしゃるんでしょうか。
クラブの運営については、定例会議というのを月に1回やっていて、いい案があがったら、みんなでその実現のために頑張っていくようにしています。一人ではできることには限界がありますけど、「一緒にやりましょう」と手を結んでいくと、すごく大きなことが出来るんですよ。
会員にも正会員と利用会員というのがあって、会費はまったく同じなんですけれど、正会員というのは、スタッフになって働けるんです。指導もできるし、お金も少し入ります。でもそのかわり、責任をもってしっかりとやってもらうんです。さすがに1,200人で総会でも開いちゃうと大変ですから。利用会員であっても、協力したいと思ってくれれば、いつでも正会員になれるんですよ。プログラムについても、正会員が得意なものがあれば、それを新しいプログラムにしたりして、人が入るごとに内容も少しずつ変わっていっています。
最後に、平口さんが感じられる「溝の口・高津エリアの魅力」をお教えください。
そうですね、まずアクセスがいいですね。「溝の口」駅がとても便利です。あとは、高津は学校が集まっている場所で公立の小中高が隣接していますから、学校間の交流があるところだと思います。教育の面では、とても良い環境だと思いますね。
また多摩川が近いので、自然と触れることもできると思います。多摩川をずっと自転車で遡って行けば、青梅まで行けるんですよ。
お祭りも多いしところも魅力だと思います。高津区民祭という、歴史のある大きなお祭りもあるんですよ。ほかにも大山祭り、親子運動会など、地域の人々が一体となって、盛大なお祭りが開催されています。お祭りを楽しむなら、高津区がナンバーワンですね。地域が元気で、地域のつながりが強い土地なのだと思います。
今回、話を聞いた人特定非営利法人 高津総合型スポーツクラブSELF理事長 平口和宏さん 住所:神奈川県川崎市高津区久本3-11-2 川崎市立高津中学校内 ※記事内容は2013(平成25)年5月時点の情報です。 |
地元の、地元による、地元のための学校。 「総合型スポーツクラブ」が目指すコミュニティとは/特定非営利法人 高津総合型スポーツクラブSELF 平口和宏さん
所在地:神奈川県川崎市高津区久本3-11-2 川崎市立高津中学校内
電話番号:044-833-2555
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