BEYOND2020では、これからの東京や首都圏の変化について、情報発信を行ってきました。今回は、2020年の東京五輪に向けて、東京の再開発が動いている中で、西新宿をケーススタディとして、再開発のこれまでとこれからについて、考えていきたいと思います。西新宿にキャンパスを構える、工学院大学名誉教授の倉田直道先生、教え子である同大学研究生の園田聡さん、ファシリテーターの一般社団法人パブリック・プレイス・パートナーズ 共同代表理事の泉山塁威さんの3名で、これからの西新宿についてお話をしていただきました。
泉山:それでは、倉田先生、園田さん、よろしくお願いいたします。倉田先生、西新宿の再開発の現状をご覧になって、いかがでしょうか?
倉田:特に西新宿副都心の場合は、日本の再開発の典型のようなところです。20世紀のコンセプトをそのまま具体化したような街なので、それが今では時代に合わなくなってきています。開発時には、車社会だと思っていたので、車を中止に都市の骨格が造られました。そのため、歩行者のネットワークがぶつぶつきれてしまっているのです。歩道は広いのですが、ネットワークになっていないため、回遊性がとても悪いのです。
しかし現実にできあがってみると、あまり車が多くなく、駐車場もかなりあいているのが現状です。そういう意味で出来た当初の考え方は今の時代にマッチしていないのです。広場のとり方も、単純にひとつの高層ビルを建ててその周りにまとまった空地をとるというような考え方で作られています。量的には確保されているのですが、あまり利用されていないのが残念です。
継続して調査をしていますが、結論はかなり見えています。西新宿に対する処方箋は、私自身だけでなく、国内外の専門家らと話していても問題点は共通しているのです。それを治せば、現状を再生することはできるのですが、一般の方とか地権者はそこまで深刻には理解していないですね。
泉山:まちづくりやエリアマネジメントの動きとしてはいかがでしょうか?
倉田:副都心再開発都市では、民間の事業者が中心になった環境改善委員会という組織が地元にあります。大学もそのメンバーになっているし、地権者も入っています。大規模なオフィスを持っている地権者が中心になってどうしたらいいかを検討していますが、最近ではさらにそれを前に進めて行こうとしています。
その周辺地区では、研究会みたいなかたちで取り組んできました。学生の課題として出したこともあります。とくに、西新宿の4丁目と5丁目は木造密集市街地で、その問題点の解決を地元の人からも期待されています。ちょうど私の学校に「まちづくり学科」が新たにできたので、5丁目をその演習の対象地にもしました。西新宿5丁目は、いろいろな要素があるので、検討の余地が十分にあるエリアなんです。
泉山:西新宿4丁目、5丁目の一部が、新たに再開発をされているようですが、これら副都心周辺の地域はいかがでしょうか?
倉田:ここは、地形に起伏があったりするので、大規模の再開発はあまりできないのではないでしょうか?若干、高いタワーマンションができたりもしているが、それもまとまった敷地ではありません。
かつて山手通りを拡幅した際に、片側だけが中途半端に削られたために残った敷地が少ないのです。道路を作った時の失敗です。当時はとにかく道路作らなければと、両側削るのは大変なので片側だけ削りました。そのため、切れ端のような土地になってしまったのです。共同建て替えのようなことはできるでしょうが、床面積の大きな高層ビルのような大きなものを作るということはできないと思います。街区ごとに何かをする程度。道路も入れないといけないし。区画整理をやるのも難しい。地権者の数も多いですしね。建物も老朽化しているし防災的にも問題はあるので、これから建て替えは必要だと思いますが、どうやっていくかはこれからの課題です。でも大規模開発は難しいといっても、今後、どう開発が飛び火してくるかはわからないですね。位置的にはとても良い場所ですから。
泉山:西新宿のポテンシャルはいかがでしょうか?
倉田:このエリアはいろいろなポテンシャルを持っています。多様化した暮らし方の受け皿となりうる場所です。そうなったのは、交通利便性がよくなったことが大きいです。特に大江戸線が通った影響は大きいですね。また、青梅街道や山手通りなどの幹線道路に接していることもポテンシャルは非常に大きいです。ここに暮らす人たちは、短時間でいろいろなところにつながります。
車を使わなくてもよいので、病院など生活支援施設が充実していれば、十分に高齢者も生活できる場所です。逆に暮しやすいでしょう。ここは多世代の可能性があるエリアです。
泉山:具体的な開発が動いていない副都心周辺の地域はいかがでしょうか?
倉田:微地形の持っている特徴も活かしてほしいです。神田川の河川も、防災的な役割だけでなく、魅力的なものとしてほしいです。
ここにはもともとあった水路もあります。今は暗渠化されていますが、学生たちはそれをもう一度再生してはどうかと言っています。微妙な地形とともにそれを資源として、きめ細かく計算して活かしていって欲しいと思います。
園田:すごく魅力だと思うのは、他の湾岸地区の埋め立て地と違って、歴史があることです。ヨドバシカメラ周辺には小さい店や路地界隈があります。歌舞伎町だったり、それぞれの町にも個性があります。カラーの違うものがたくさんあるのが新宿の魅力です。
倉田:場所の記憶とか歴史をもう少し継承していってほしいですね。ちょっとした配慮をするだけでずいぶんと違うものができてくるのではないでしょうか。そうすることによって、将来的に価値をもつようになると思います。
泉山:西新宿のこれからを考える上で、どうゆう機能が必要になってくるでしょうか?
倉田:もう少し生活を支援する施設ができてくるといいと思います。スーパーもそうですが、もう少し選択性の高いものです。病院は幸い大きなものがありますが、大学病院なので日常的なものではありません。診療所のようなもっとかかりつけ医のようなものが必要です。
もちろん、最近は日常的に使える生活支援的なものが少しずつ増えてきて、ビルの中にも結構入ってきています。それがさらに充実してくると、かなり住みやすい場所になると思います。
泉山:サスティナブルな都市の視点ではいかがでしょうか?
倉田:車が不要な歩いて暮らせる街なので、歩くということの魅力を考えていってほしいです。西新宿の課題として、自転車のための道路の整備が進んでいません。少なくとも西新宿のエリアだけでも自転車を使えるようにして、駐輪スペースの増設やレンタルサイクルなどに取り組んでほしいです。西新宿~新宿間は自転車で移動するには適当な距離で、現に西新宿は自転車利用者が多いエリアです。
そのため放置自転車もかなり多いので、歩道部分に駐輪場を設けるのもよいでしょう。また、駅前の地下の駐車場が全然使われていないので、その一部を駐輪スペースにすることも考えられます、駅の近いところに駐輪スペースがあるのは、とても便利なことです。
また、働いている人は、朝自転車で会社に来て停めておくと仕事中は使いません。この停めたままの自転車を昼間にシェアして使うようになればずいぶん変わってくるでしょう。今や世界中でやっています。パリなどはとくに大掛かりにやって、そのあとは世界中に広がっています。近年、お金がかからない、環境に優しい、健康に良い、レクレーションとして楽しめるという理由で、自転車が重宝されています。丸の内などと比べて圧倒的に緑被率の高いこのエリアでは、自転車がとても適しています。環境などに意識が高い人は特にターゲットになり得ます。
泉山:西新宿も世界的なエコやサスティナブルの潮流に向かっていくと良いですよね。
倉田:これからの交通を考えるとき、独立してひとつひとつの交通手段を考えるというよりは、組み合わせて考えるべきです。特に公共交通と自転車を組み合わせるとか。カーシェアリングなども。自動車メーカーにとってみればよい話ではないかもしれないが、世界のライフスタイルをみていると、そういう方向にあると思います。あとはもう少し文化的な要素があってもいいと思います。新国立劇場も比較的近いですが、もう少し充実させてほしいですね。
泉山:西新宿の公共空間やオープンスペースはいかがでしょうか?
倉田:高層ビルの低層階を、もう少し従来の街が持っていた密度で、界隈性などを活かして、人々が楽しめるような作り方を入れると、新宿らしい開発になっていくのではないでしょうか?今見ていると、防災の問題などいろいろあるとは思いますが、ただ広いだけの空地を作ってしまうと、どこにでもあるようなタワーになってしまいます。いろんなオープンスペースの使い方が想定されていてよいはずなのに、実際には、西新宿の都心エリアを見ると、だいたい結論が見えているようなものを作り続けています。
制度的な問題をクリアすることも必要ですが、制度をもう少し変えていかないといけない部分もあります。園田君の言うように、車の入ってきにくいような界隈性もこの地区の魅力なのです。なので、作り方としては画一的でないものを期待します。そうすると、この地区の魅力がもっと増すと思います。神田川沿いくらいはせめて低層にして、気持ちいい空間にしてほしいですね。
泉山:西新宿の公共空間やオープンスペースの使い方が変われば、超高層ビルの建物も変わっていくでしょうか?
倉田:低層階も商業施設をうまく取り入れていってほしいです。特に新宿の歴史ある街の魅力は、小さな店が集合していることです。なので、商業施設といってもコンビニとかではなく、地域とかかわりのある店舗をどんどん入れていって欲しいです。どこにでもある、品揃えがしっかりしていてとかいう店だけではなく、もう少し小さな店を入れていって欲しいです。
このエリアの昼間人口は夜間人口の約12倍。マーケットとして考えても、テナントは、きちんとしたレストランや人が楽しめるものや喜ばれるものが良いと思います。
泉山:西新宿の住環境という視点ではいかがでしょうか?
倉田:最近出来てきたビルには、オフィスと住宅が混在しています。オフィスメインのビルも多いですが、住宅メインでの開発が進んできています。これは地域全体の土地利用としてはとてもよいことです。
これまでは、古い市街地計画の考え方で、西新副の副都心エリアのほとんどは業務中心として考えられてきました。しかし、できるだけ多くの機能を持つことが将来のあるべき都市の姿です。人が住み始めてきているということは、そこが街になってきた、ということなのです。
泉山:住まい方も変わってくるでしょうか?
倉田:しかし、これらのできてきた住居は少しワンパターンだと思います。居住者層の幅が狭く、2LDKや3LDKといったファミリー向けがほとんどなのです。この立地を考えれば、もう少し多様なものにするべきではないでしょうか?家族形態も違うし、新宿では暮らしている人たちがそこで永久的に暮していくとも限りません。仕事場と居住スペースが一緒になったようなものが必要かもしれません。国際ビジネスをやっている人や日本に既に住んでいる外国人も多い地域ですので、もっと国際性を重視してもよいかもしれません。
高齢者にも住みやすい場所なので、若者向けワンルームマンションではなくてもう少し上のグレードの単身者用の住居があってもいいですね。
泉山:工学院大学の学生は、新宿に住んでいるのでしょうか?
倉田:笹塚とか、4丁目方面は少し安いので住んでいると思います。ただ、新しく開発したものには住めないでしょう。シェアハウスみたいな手軽なものがあるといいかもしれません。また、都心にしか成立しないような多様な居住形態もいいですね。単なるファミリーマンションだと限りなく億ションになってしまって、難しいです。しかし、現実にはそれが多いのです。
倉田:東京において少ない多様な居住スタイルの受け皿を是非実現させてほしいです。基本的にはマンションの形になるとは思いますが、都心でしかありえないような住宅の受け皿です。
新宿の立地、利便性とかだけではなく、もう少しミクロにみた可能性というのも活かしてほしいです。地形、河川があるとかを含めて、そういうものに対応した住宅なりの開発をやってほしいです。どちらかというと、敷地の中で完結するのではなく、もう少し開発を地域に開いてほしいです。機能だけではなく、暮らしている人、訪れる人が楽しく居られるような場所を作ってほしいです。緑とか交流を促進するようなカフェとかを積極的に。特徴のあるお店やこだわりをもってやっているお店があると、それは使う人の側にたつと選択性の高いことになります。それがなんとなく新宿という街の持っているイメージに近いのではないでしょうか。
園田:これだけのポテンシャルのある街なので、この街を使い倒すくらいの開発をしてほしいです。食住が近接しているので、昼の休み時間に帰ってきてお母さんや子どもと気持ちよく食事をできる場所があったり。仕事が終わってからも歌舞伎町などの飲み屋街ではなく、ワンランク上のレストランなど、夕方の時間帯の経済が活性化するようなものがあったり。今の西新宿にはない、質が高く、感度の高いものがあると、街全体としての生活のクオリティもあがると思います。
泉山:子どもの遊び場が都心にはあまりないので、マンションを創る際には積極的に取り入れてほしいと思います。ここがより魅力的になるためには、今ある高層ビルにも何かやることがあると思うので、それも期待したいです。
泉山:これからの西新宿から、東京のこれからの都市デザインのポイントが見えてきましたね。倉田先生、園田さん、今日はありがとうございました!
本記事は、(株)ココロマチが情報収集し、作成したものです。記事の内容・情報に関しては、正確を期するように努めて参りますが、内容に誤りなどあった場合には、こちらよりご連絡をお願いいたします。